嘆くことはしない、悲しむこともしない、だから、心配もしない、じゃなかったのか!

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昨日のつくばは殊の外暑い日でした。そしたら、40度を記録したところもあるということで、つくばなどましな方だったと夕方のニュースを見て思いました。夕方、一雨あり、それから気温が急激に下がりました。心地よい風を受けて、ぐっすりと眠り目覚めたところです。


 私の蔵書を収める書架、その目立つところには、やはり、思い入れのある書籍を何冊か置いてあります。

 その中に多田雄幸が著した『オケラ五世優勝す』という一冊があります。
 私に船への興味をもたせてくれ、生きることの素晴らしさを教えてくれた一冊です。
 
 多田雄幸は、15歳の時に終戦を迎えますが、その時、彼は、もはや飛行機さえもない予科練に籍を置いていました。
 戦争が終わると、彼は絵に興味を示し、彼の絵画は二科展に入選したこともあるのです。
 今、私が絵を描くのも、ひょっとしたら彼の影響を密かに受けていたのかもしれません。

 私が彼の著書を購入したのは、つくばにある友朋堂という本屋で、退屈しのぎに何か読む本はないかと漁っていた時でした。
 最初から、彼の本を読もうというのではなく、手にした本をペラペラめくって、気に入ったのを数冊買っては読む、そんな中での一冊だったのです。

 私がその本に引きつけられたのは、彼が世界一周単独ヨットレース「アラウンド・アローン」で初代優勝者になったことであるのは間違いありませんが、それに加えて、彼のヨット『オケラ五世』が彼の手作りであったということもまた動機の一つであったのです。

 ヨットというのは、素人でも作れるんだという驚きです。
 
 そして、ペラペラと本をめくっていくと、レース中、ヨットが悪天候の中横転し、あるいは座礁し、それでも、自分だけでそれを修理し優勝するという破天荒なあり方にも、これは家にもちかえってじっくりと読まなくてはいけないと思ったことをはっきりと覚えています。

 さらに、購入をより決定づけたのが、ヨットを作り、その資金を集めるために、自由に働くことのできるタクシー運転手を職業にしていたことです。
 それならば、海に出るのも自分の都合がつきますし、稼ぎをすべてヨットにつぎ込むことができます。

 素晴らしい!

 これが私が、彼の本に出会った時の状況です。
 当時、私は教師をしており、いろいろな問題に頭を悩ましていました。
 家庭もあり、自分の好きにできる金もなし、時間もなしという状況でした。
 きっと、だからこそ、多田雄幸なる人物の生き方に敬愛の念を持ってこの一冊を手にしたのだと思うのです。

 それから、私の書架には、一連の海とヨットに関する書籍に揃うようになり、ついには、霞ヶ浦のヤマハヨットスクールで船舶免許を手に入れることになるのです。

 でも、私の船は、ヨットではありません。
 多田雄幸の本を読んでいれば、ヨットになるはずです。
 でも、私はあの本を隅から隅まで読んで、ヨットを持って、それをメンテナンスしていくには少々自分には「勇気」がないと判断したのです。

 私は、高いところが得意ではありません。
 暖炉をつけて、だったら、屋根に上がって、煙突掃除をしようとはしごまで用意しましたが、到底無理な話でした。
 先だっても、屋根の修理をした時、業者が、こちらまで上がってきてください、漆喰がこんなにダメになっていますと言いますが、とてもではないですが、屋根に上がることはできませんでした。
 ですから、当然、ヨットの中央に位置するマストに登って、あれこれ作業をするなどできるはずがないのです。

 私には、強力なエンジンのついたボートが一番合うのだと思ったのです。

 本で読んだ通りには、現実は思い通りにはなりませんが、それでも、一冊の本が私に行動を起こさせたことは重要なことです。
 いかなる文学も、漱石も鷗外も、李白や杜甫も、私に行動までは起こさせませんでしたが、多田雄幸は私を動かしたのですから、素晴らしいとしか言いようがありません。

 嘆くことはしない、悲しむこともしない、だから、心配もしない……

 そんなことが本にあったように記憶しています。
 もしかしたら、私の思い過ごしかもしれません。
 でも、好きなことをするために、人生のすべてをそれに注ぐことの意義を教えてくれたことは確かであると思います。
 
 ほのかな夢、それが、人を動かし、何かを形にしていくのです。
 今、私は港で、デッキの上で、いくつものマストが林立する中で、幸福なひと時を過ごせる時間を持てているのです。

 1990年、彼は3回目の世界一周単独ヨットレースに参加していました。
 好成績を期待される彼の気持ちを誰も察することはできませんでした。1回、2回と独力でレースに参加していたのとは異なり、今回はスポンサーが付いていました。

 したがって、資金は潤沢でしたが、それに応えようとする彼の真摯な精神は重石をつけられたような気持ちであったのではないかと推察するのです。
 誰も、圧力をかけるわけでもない、せっつくわけでもなくても、彼の律儀なあり方が知らず識らず彼を追い込んでいったのではないかと思っています。
 
 翌年、3月、彼は6艇中5位でシドニーに到着、そして、ホテルで自らの命を絶つのです。

 嘆くことはしない、悲しむこともしない、だから、心配もしない……としていたんじゃないのかと、あの時、私はそっと叫んだことを思い出すのです。


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