あなたはどんな虫

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冬、書斎の窓べで咲いた赤い花。零下の中で、赤い花は良い。暖かさを感じさせてくれる。そういえば、春の兆しが感じられるのです。どこというわけではないのですが、そこかしこに、です。


 オーストラリアに暮らす孫の最近のブームが、図書館での読み聞かせに参加することだというのです。

 iPadで動画を見るのが常になっている孫です。
 近所のカナダから来た元気一杯の兄弟も、隣の隣に暮らすオージーのお姉さんも皆小学生で、幼稚園生の孫とは時間が多少ずれていて、孫は一人で遊ぶことが多いのです。
 そんな時に、iPadを指でスクロールして、動画を見るのが、きっと楽しみであるに違いないと思うのです。
 あまりに際限なくiPadと対面しているので、娘から見ていい時間を決められ、それも守れるようになってきたと言いますから、随分と成長しました。

 私が1ヶ月ほど滞在していた時、その図書館に行って読み聞かせの会に参加したことがあります。
 その時は孫はまだ小さく、母親の腕の中でお話を聞いていたのですが、やはり男の子の中には、お話など聞かずに、走り回っているやんちゃ坊主もいました。
 日本であれば、きっと、担当の図書館員が注意をしたり、親が力づくで抑えたり、あるいは、別の場所に連れて行ったりするのでしょうが、ここではまったくの放任状態です。
 皆、にっこりと笑みを浮かべ、子供を見守っているのです。

 成長した孫は、幼稚園では友達の頭をコツンと叩いたり、話を聞かずに先生から注意を受けているといいます。
 だから、図書館の読み聞かせ会で、あちらこちら迷惑をかけているのではないかと心配していたのです。
 しかし、その日のラインでは、先生の方を向いて、お話をちゃんと聞いているというのですから意外だなと思っているのです。

 その日、娘は、この孫が破ってしまった借りた絵本を、謝罪し、弁済をすることを申し出て、返却をしたそうです。

 なんだか、その話の方が、図書館で話をよく聞いている孫より私には納得行くのですから困ったものです。
 返却すると、正直に行ってくれてありがとうとまず言われ、本は丁寧に修理しておくから弁済は必要ないと言われたというのです。
 孫にも謝らせて、もう二度と同じこととをしないようにと教えたというのですが、係りの人からキャンディをもらい、何食わぬ顔でいたと言いますから困ったものです。

 教員をしている時、さまざまな校務を担当しましたが、学校図書室を充実せよと指示をされたことがあります。司書の方と一緒に、どうしたら生徒が活用できるか、どのような本を入れたらいいのかと相談しながら進める役目です。

 ある時、司書の方が、私に一冊の書類を示してきました。
 紛失図書一覧だというのです。

 私はびっくりしました。相当の冊数の本が行方不明なのです。
 卒業していった生徒や在校生の名前、それに教員の名前もあります。それらは担任に連絡させて取り戻す算段がありますが、冊子の後ろの方には、借りた人の名前がないものがありました。
 これは、紛失ではなく、無断借用であるというのです。

 いや、盗難ですと、司書は言い直しました。

 学校という場で、本が盗まれているなんてとショックでありました。
 私の図書室管理という校務分掌は、この行方不明の本を取り戻すことが主要な任務となったのです。
 
 さすがに、在校生や教師たちは自分の名前が書かれていますから、決められた期日に多くが返却されてきましたが、失くしたとか借りていないという生徒もいて、ほとほと困り果ててしまいました。
 最善を尽くして、それでも出てこなかった本の一覧を出し、司書さんに処理をしてもらい、今後は返却もれがないように、図書委員の活動を活発化させ、そして、図書室に植物をたくさん置いたのです。

 本代も大切ですが、本を盗むなんて気持ちが起こらない環境も大切だということです。

 私の図書分掌も任務が終了する頃のことでした。
 退職した先生なんですが、病気が治癒せず亡くなったという連絡がありました。
 私の大学の先輩でもあった先生です。

 おい、飲み行こうと誘われて、ひとしきり世間話をして、店を出る段になると、今日は持ち合わせがないからお前払っとけと、そんな先輩です。
 彼は本の虫で、きっと小遣いのほとんどを書籍購入に費やしていたのだと思います。

 本の虫にもいろいろあります。
 本を読むことを主にする虫もいれば、古本や珍本を蒐集する虫もいます。

 その先輩の教師は、どちらでもない虫でした。
 どういうことかと言いますと、彼が退職した時、彼の使用していたロッカーを庶務の先生方で動かそうとしたら、重たくて動かないと大騒ぎなのです。
 鍵もないというので、破壊する羽目になりました、開けるとそこにはびっしりと本があったのです。

 あれだけ催促したのに、彼は本を戻さずにいたのです。

 そして、さらに驚くべきことに、葬儀が終わり、一ヶ月ほど経った時、その先輩の奥さんから私あてに電話があり、学校の刻印が押された本がたくさんあるから、返却したい、それらをダンボールで送るというものでした。
 上司は、ロッカーに本が隠されていたときには、警察に届けなさいと怒り心頭で、なんとかなだめたのですが、今回は、仕方がないねと諦め顔です。

 だから、私は、亡くなったその先生を、「隠し本の虫」と密かに呼んだのです。
 きっと、本がそばにあることで安心した人だったに違いないのです。
 
 そんなことを、孫が図書館で読み聞かせを静かに聞き、家ではストレスがあるのかどうかわかりませんが、借りた本を傷つけてしまうということで思い出したのです。

 私自身はどういうわけか人様が手にした本を嫌う傾向があるのです。
 一、二冊は、古本を購入したケースがあるのですが、それも、朱線や落書きのないものを選んで買っています。本はまっさらで、あの独特の匂いのするものでなければならないのです。
 さらには、私の手垢で汚れていなくてはならないのです。

 そういう私はどんな本の虫なのだろうかと思うのです。




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コメントありがとうございます

そうでしたね。袋に入って、名前を書いていました。
今は、バーゴードで、ピッで終わりです。
そんなカードからお話ができたというのは、知りませんでした。
コメントありがとうございました。

No title

直接の話題とはリンクしなくて恐縮ですが、nkgwhiroさまはジブリの「耳を澄ませば」というアニメ映画をご存知でしょうか?  主人公の少女だったか少年だったかが、昔は本の裏表紙部分に必ずあった、「図書貸し出しカード」によって、前借り人 が誰なのかを知り、恋人関係になる、というお話ですが、いまは個人情報保護法のせいでしょう、こうした「1冊の書物を巡る素敵な関係性」が消滅してしまいました。仕方ないと思うと同時に、ちょっとばかし残念です。
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