ほっこりとする話

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国のうちも、そとも、てんやわんやです。あまりの馬鹿さ加減にタヌキも雲隠れしようとしています。そんな時はほっこりするのが一番です。


 週末の朝、布団の温もりの中で、今日は休みだぁと思うと、心がほっこりしますね。

 そういえば、昔の映画、そう、小津安二郎の『東京物語』の笠智衆の演技、あれはほっこりとします。
 揺らぎのない安定した台詞と、それを語る笠智衆の穏やかな言い回し。
 あまりに自然で、映画の出来事とは思えないくらいです。

 おじいちゃんが縁側に座って、足の爪を切りながら、私に説教していた口調と同じなのです。

 公園で、子供たちが大騒ぎです。
 誰かが設置されている水道の蛇口をとってしまい、水があふれれ出しているのです。
 やって来る大人たちにこの危機的状況を伝え、なんとかして欲しいと訴えかけます。大人たちもこりゃ大変だとずぶ濡れになりながら悪戦苦闘しますが、水の力はいかんせんどうにもなりません。
 一人の女性が、携帯をいじっています。
 あいにくと今日は週末、どこもかしこもお休みです。
 そうだ、交番に電話して見ましょうと、どこでどう調べたのか、近くの交番に電話を入れます。
 お巡りさんが緊急で水道屋さんに来てもらうよう手配してくれるというから待ちましょうと。
 この言葉を聞いて、皆はほっこりとするのです。

 後日、公園に行きますと、まったく新しい水道設備が、綺麗に整備されていたのです。
 さらにまたほっこりです。

 私の暮らすつくばではさほどの酔っ払いを見かけることはありません。
 東京にいるときのことです。
 終電に近づくほど、電車は押すな押すなの大盛況です。
 疲れているんだから、早く帰ればいいものを、酒の一滴が二滴になり、そのうち何滴かもわからなくなり、酒の勢いで、どうにでもなれと自棄になり、挙句に、ホームのベンチで寝てしまう、そんなおじさんを何度も見て来ました。

 ある夜、さほど遅くない時間帯のことです。
 席に座ったおじさん、明らかに酒臭い、ラッキョウも食べたに違いない、そんな匂いがしています。
 その隣にはうら若きお嬢さんが萎縮するように背中を丸めて座っていました。
 お嬢さんの前にはハツラツとした青年が何かあったら飛びかからんばかりに鋭い視線をラッキョウくさいおじさんに向けています。
 酔っ払っているとはいえ、数えきれないほどの人の表情を見て、その気持ちを推察して、そして、仕事をして来たおじさんです。
 その視線を感じないはずがありません。

 おや、お兄さん、このお嬢さんの彼氏かなと。
 お嬢さんも青年も、この突然の言葉に、困惑の表情を浮かべ、ほんのりと顔を赤らめます。

 わかるよ。おじさんにもそういう時があった。お兄さん、男は度胸だよ、振られてもともと、気持ちはしっかりと伝えなければ行けない、と真顔になって、青年の方を見て言います。

 お嬢さんは下を向いたままです。
 青年はというと、先ほどまでの鋭い目つきがすっかりと失せ、穏やかな笑みを浮かべ、うなづいています。 
 そして、電車は停車しました。
 青年はお嬢さんの後に続いてホームに降りて行きました。

 その時、ラッキョウの匂いをプンプンとさせているおじさんに向かって、青年は目で挨拶を送ったのです。すると、おじさん、大きな声で、一言、頑張れと。

 そして、降り立ったホームで、あの青年がお嬢さんに向かって、真顔で何かを言っていたのを、電車に乗っていた人たちは目撃したのです。なんだか、皆、ほっこりした気持ちになり、いびきをかき出したラッキョウくさいおじさんのうなだれただらしない姿を見下ろしては微笑んだのでした。

 オックスフォードのとあるカレッジにあるパブでの出来事です。

 学生が多いこのパブではほとんどが常温のなま暖かいビールをハーフパイント、オーダーして、それを手にして、一時間でも二時間でも話をします。
 その中に、教授と思しき老人が一人、小さなグラスに注いだスコッチを一気に煽っては、カウンターに寄りかかっていました。
 時折、店の中を虚ろな目つきで見回し、そして、ポケットからコインを出しては、カウンターにパチンと音を立てて置くのです。
 すると、カウンターの中で忙しく動いているバーテンがさっとやって来て、コインを受け取り、後ろの酒瓶の置いてある棚からスコッチのびんを取り出し、老人の小さなグラスに注ぎ込むのです。

 バーテンは、規定の位置でスコッチの瓶の口をさっと揚げます。
 老人はそれを見て悲しそうに、今度はバーテンの顔を見ます。
 バーテンは、すると、瓶の口をわずかに落とすのです。スコッチウイスキーが小さなグラスのわずかな量ですが注ぎ込まれます。
 老人は、そうこなくちゃと、バーテンは、このくらいでどうだとお互い微笑むのです。

 この老人は、教授でもなんでもありません。
 かつてこのカレッジで働いていて、今は辞めている事務員だった方です。
 ほとんど毎晩、夜になると、カレッジに入って来て、街のパブより幾分安い、しかも、若い人たちがたくさん集うこのパブで決まって三杯のウイスキーを飲んでいるのです。

 どこから来たと私の顔を見て言います。
 日本からか、いい国だ、お前のところの女王陛下は元気かと素っ頓狂なことを言います。

 昔はやりあったものだが、そりゃもう昔のことだとも言います。
 日本はあなたの国からたくさんのことを学び、いまも学んでいますと私が言うと、満足そうにうなづくのです。
 一杯おごらせてほしいと私が言いますと、自分は毎晩三杯のウイスキーを自分のポケットから出したコインで飲むことにしていると言い、反対に私にハーフパイントのビールをおごってくれたのです。

 この国にも、素晴らしい奴がいるではないかと、私、ほっこりした経験があるのです。

 なんとかファーストだとか言って、世界を混乱に導くお人もいれば、莫大な防衛費を計上して、強国になると、さらには周りにイエスマンを配置し、終身トップに立たんと豪語するお人もいます。
 さらには、それまでの舌の根の乾かぬうちに、気持ち悪いくらいの笑顔を振りまき、政策を百八十度変えてくるお人もいます。

 どうも、私、このような方々には、ほっこりというわけにはいきません。

 ほのかですが、彼らの末路が見えるのです。
 ぎすぎすし、とげとげした方々の末路がです。





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