あと一文はなんだろう

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暖炉の火というのは不思議な力を持っています。あれだけ騒ぎ、声をあげていた男の子たちも、メラメラともえる火を見て、静かになります。太古の昔、焚き火の炎を見て、きっと、人間は哲学することを覚えたに違いありません。炎を手にしたからこそ、人間は知恵を持つことができたと思っているのです。


 朝の気温も二桁になりました。

 暖かいというほどではありませんが、それでも、朝の散歩に出かけてみようという気になる気温です。私のライフサイクルも、この辺りで冬モデルから夏モデルにチェンジとなります。

 オーストラリアで生活する時、私の場合、ほとんどが彼の地の冬の季節の時期になります。
 気温40度に平気で到達する彼の地では、私にはどうもこたえるのではないかと思っているのです。こたえないまでも、暑さのために、ずっと家の中にいるのでは何にもなりません。
 チョイ住みであっても、二、三日の旅であっても、歩くことが私の旅の醍醐味と考えていますから、家の中に詰め込まれていては、退屈この上ないということになります。

 彼の地での冬のありようは、私にとっては最高のものなのです。
 暖かくもあり、そこそこに寒くもあり、それが私にはちょうどいいのです。

 ですから、皆が寝静まっている早朝、そっと起きて、リビングで一仕事をして、インコの鳴き声がかまびすしくなる頃、朝の散歩に出るのです。

 オージーたちも散歩が大好きです。
 ですから、朝から、挨拶を交わしたり、ちょっとした会話で立ち話をしたり、いつも会う人などからは昨日焼いたクッキーだから持っていけと頂き物まであるのですから、楽しいことこの上ありません。
 
 そして、私が滞在するその期間、見事に雨のない、晴天の中での散歩になるのです。
 どうやら、天候の運だけには恵まれているようです。

 人は歩く動物なのだから、街は人が歩くための工夫をしなくてはいけない、そんなことを彼の地ではいつも感じるのです。

 ゴールドコーストの街は、もちろん、車社会で、人々は、買い物も、ビーチに行くのも、公園に行くのも、車を使い、それゆえ、駐車ペースもたくさん確保されています。
 同時に、人の歩く道も、まさに、縦横無尽に作られているのです。
 
 日本のありようを見て見ますと、どうも、車のために街は一生懸命に何事もしているようですが、歩くということに関してはなおざりなような気がしてならないのです。
 歩道はレンガが歪んで歩きにくいし、時には、我が物顔で自転車が歩行者の脇をかすめていきます。

 つくばは最先端の街であるとよく言われますが、この点ではまだ後進国と言わざるを得ません。
 きっと、若いやり手の市長さん、それに、つくばを世界に冠たる街にしようと頑張っている市役所の方々は、そのような人が安心して、毎日歩いても景観に飽きない、そんな歩く道をこのつくばに作っていってくれると密かに思っているのです。

 さて、この日の朝、一仕事を終えた私は、ジャンパーを羽織り、朝靄がかかる筑波の峰を横目に見ながら、歩き出したのです。
 久方ぶりの朝の散歩です。どことなく気分もウキウキしてきました。

 最初に出会ったが、卓球クラブの会長をしている方です。
 冬でも、夏でも、毎日、歩くような早さでランニングをしています。
 先だっては、免許証の更新の際、認知症のテストを受けさせられ、見事に合格したと大威張りでした。まぁ、これだけ毎日早足で歩いていれば、認知症も向こうから避けるでしょうと、皆で冗談を言ったばかりです。
 軽く挨拶をして、お互いすれ違います。

 次に出会ったのが、近くにすむ女子高生です。
 あの服装からすれば、きっと、どこか県立の、バレーボールか何かをしている生徒に違いないと私は踏んでいるのです。

 まず、制服の下に、ジャージを履いています。そして、大きなスポーツバックを抱えています。それに何より背が高い、のです。そんなことからそう思っているにすぎないのですが。
 こちらから、「おはよう」と声をかけますと、立ち止まり、姿勢を正して、挨拶を返します。
 あの挨拶の仕方は、間違いなく、運動部特有のものです。
 存外、私の予測は当たっているのではないかと思っているのです。

 しばらく行くと、もうさほど人にはあわない幾分広めの畦道に入ります。

 松林でこれから行く右に折れた先が見えませんが、何やら意味不明の言語が不規則に、そして、乱雑に聞こえてきます。
 そこにいたのは、つくば名産の春キャベツを収穫するために集まった外国人の集団です。
 十人はいるでしょうか、それだけいると、女の人なんか、その畔を行き交うのはちょっとためらうのではないかと思われます。
 しかし、彼らは案外、気さくなのです。

 折れ曲がって、松林の向こうから姿を見せた私を見つけると、道路の端により、流暢というに相当する日本語で挨拶をしてきます。
 あまりに、その挨拶が素晴らしいので、私も挨拶を返すだけではなく、その中の一人に、「これから、収穫ですか」と尋ねたのです。

 「収穫」なんて難しい日本語、わかるかなと口に出した瞬間に、後悔をしたのですが、「はい、これからシュウカクです」と言います。
 さらに、そばにいた若い青年が「日本人のオヤカタを待っています」と言うのです。
 彼らは、早めにきて、日本人の親方がくるのを待って、それから作業を開始するのでしょう。

 インド人やネパール人はインド料理店で見かけることが多く、このような田畑で見かける、この手の顔の人たちはほとんどがパキスタンからの実習生です。
 彼らは、彼ら同士ではパキスタンの言葉を早口で、乱暴に、つっけんどんにしゃべりまくりますが、日本人に会うと、丁寧な日本語で話をする、そのアンバランスがとても面白いと私は思っているのです。
 ともあれ、その気さくな挨拶と会話に、なんだか、気分も晴れ晴れとしてきました。

 早起きは三文の徳と言います。

 私にとって、朝の散歩は、人として歩く本能を呼び覚ますこと、人と触れ合い挨拶の言葉を交わすこと、
 ……
 さて、あと一文はなんだろう?




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🦅ただいま、<Puboo!>にて、『懐かしき哉あの夏の日』を発信しています。有料作品ですが、一部、試し読みができます。ぜひ、お読みください。

<400字詰原稿用紙29枚 年齢を経るに従い、昔を懐かしむのだと言います。
「懐かしのフォークソング集」などという番組に、反応している自分を発見すると、確かに年齢を経ると昔を懐かしむものだと納得するのです。とりわけ、夏という季節は、日本人に過去のふりかえさせる雰囲気に満ちた頃合であります。
8月15日があり、お盆があり、日本人は戦争体験の有無に限らず、自分のちょっとした過去を振り返り、歴史に思いをいたすのです。>

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