炎を手にした大工

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コッツウオルズをおとづれた時、道端に止まっていたクラシックカー。この国では、普通にこのような車が走っている。そこへ、馬が人を乗せて、パカっ、パカってやってくるんです。なんか、いいなって感じるんです。



 炎を手にしたヒトは、無敵になり、哲学をすることを手に入れたのです。

 私は、つくばのこの家を増築するときに、ついでにと、大工さんに言って、暖炉を書斎に設置してもらいました。
 しかし、暖炉を設置したことのない大工さんは、さぁ、困ったと考え込んだのです。
 彼にとっては、初めての経験だったからです。
 でも、さすがにプロです。
 「私は、家具職人としても活動をしていますが、今回の暖炉設置で、もう一つ大工としての幅を広げさせてもらいます。」と、それからはいろいろ研究をしてくれて、安全で格好いい暖炉を作ってくれたのです。
 
 屋根から煙突だけ出すのも格好が悪いから、レンガで大きな煙突を作りましょう。
 そうそう、薪を入れる場所も確保しましょう。
 そうすると、こうなりますから、その上のこの空間、どうしますか、と私に問います。
 違い棚を作って、飾り物をおくようにしますよ、と私。
 そうそう、その違い棚は私が作りますから、棟梁は何もしないでください、と私、言葉を継ぎました。
 大工の棟梁あっけにとられています。
 
 そんなやりとりの中で、床に耐熱タイルを貼って、そこにストーブを置くというのも良いですよ。暖炉より、ストーブの方が、鍋を置いておけば煮物もできますし、いろいろ調理道具もあって、楽しめますよと、勉強した成果を私に披瀝をしますが、私は、ストーブはダメ。暖炉一点張り。
 
 そんなわけで、我が家にはアメリカ製のさほど高くはない、そこそこの暖炉が設置されたというわけです。

 棟梁と二人、暖炉の前に腰掛け、火を灯します。
 ナラの木の薪を三本くべます。五徳の下から着火材で火をつけます。乾いて、大きな薪に訳もなく火が着きます。
 煙は上昇気流に乗って、煙突の穴に吸い込まれて行きます。
 棟梁、すかさず、できたばかりの彼が作り上げた自慢のバルコニーに飛び出して行きます。
 私も後を追います。
 
 煙突から、煙が出ています。
 実に美しい、心地よい白い煙です。
 風の吹く感じで、こちらにも煙が流れてきます。そして、薪の燃えるいい匂いがしてきました。
 棟梁も私も、思い切り鼻の穴を膨らませます。

 暖炉に戻り、炎の燃え盛る周りの耐熱レンガに問題はないかを見たいと棟梁、暖炉の前にどかっと腰をおろします。私もその横に腰をそっとおろします。
 しばし、いや、結構長い間、沈黙が続きます。
 真新しい薪掴みでもって、棟梁、ナラの薪をくべます。
 「いいですね。暖炉。」 
 そう言って、また、沈黙が続きます。
 
 冬、長女の孫たちが遊びにくると、必ず、暖炉を所望してきます。
 男の子二人の兄弟は、静かな我が家には、嵐のようなざわめきをもたらします。
 喧嘩する、泣く、わめく、走る、大きな声を出す、そして、私に絡みついてくるなど、私はどっと疲れを増すのです。

 そんなとき、暖炉に火を入れますと、二人の男の子が揺らぐ炎、家の中で見ることのできる火をじっと見はじめるのです。
 一言も言わずに、二人並んで、炎を見ているのです。
 さっきまでのあの騒々しさはなんだったのだと思うのです。

 きっと、大昔、さらに大昔、人類は、炎を手にして、二つのものを手に入れたのではないかと想像するのです。

 一つは、炎があれば、ヒトの大敵である猛獣もヒトに害を及ぼす虫も来ないと知ったこと。炎の側に入れば、漆黒の闇の中で、あかりと安全と手に入れることができたこと、です。

 そして、いま一つは、考える時間を手に入れたことではないかと思っているのです。

 炎は揺らめき、まるで生きているかのように、舌を伸ばし、引っ込めます。
 その炎を見ながら、安全に、思考にふけることができたのです。
 二足歩行に加えて、哲学する時間を得たことが、人類の脳をさらに大きくしたのだと私は確信をするのです。

 「大丈夫ですね。たまに、点検に来ますよ。」と棟梁。

 ワインを持って、たまに我が家にやって来ては、暖炉の前で、二人してグラスを重ねたのです。
 その棟梁が来なくなって久しくなります。
 
 その棟梁がGWの始まった日に、我が家の玄関に立っていたのです。

 「ご無沙汰です。いや、なに、ちょっとアメリカに行っていたんですよ。この暖炉のおかげで、ニッポンの名もなき大工が、あっちでカーペンターをやっているんですよ。」

 そんなことを言うのです。
 アメリカでは、大工の仕事というのは、コンピューターできちんと切られたパーツを設計図に従ってはめ込んで行くのが仕事。私のように、隙間にあった家具を作ったり、個性ある暖炉を設置したりをなかなかやれる大工はいないですよと、だから、重宝がられて、いまはアメリカはシアトルで、カーペンターをやっていると言うのです。

 我が家の暖炉は一人の大工の人生も変えたのかと思うと、感慨ひとしおです。

 連休中、ちょっと寒くなる一日があると言いますから、その日、私はシーズン最後の暖炉を焚いて、掃除をして、また来るべき初冬の寒さを待ちたいと思っているのです。  




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いつも素晴らしいページですね

コメントありがとうございます
商売柄、結構、いろいろなところに行ってきました。
このクラッシックカーも、乗馬する方々も皆体験してきたことです。
歩くのが好きで、ちょこちょこ行きますので、面白いものをたくさん見ることができます。
どこへ行っても、歩いていると、その土地の人々の素の姿が見られるようで楽しいのです。
そのために、下調べもして行くんです。当てずっぽうでは、せっかくの時間が無駄になりますから。
でも、現地に行くと、下調べそっちのけで、あちこち歩き回ってしまって、疲れ果てているんです。
コメント、とても嬉しく思いました。
これからもよろしくお願いします。それでは、失礼します。

暖炉の炎も見飽きません

オーロラは見たことがありませんが、素晴らしいらしいですね。でも、寒いのは良くないですね。スキーに行って、
寒くて、ずっとコタツに入っていたくらいですから。

はじめまして

はじめまして 
足跡をありがとうございます。とても魅力的でしばらく読みふけってしまいました。
暖炉の側にいるようでした

・・・と
>コッツウオルズをおとづれた時、道端に止まっていたクラシックカー。この国では、普通にこのような車が走っている。そこへ、馬が人を乗せて、パカっ、パカってやってくるんです。

BSで同じような映像をみました。コッツウォールズに行かれたことがあるのですね~ 是非いろいろ教えてください

No title

暖炉の炎を「オーロラ」といったりしますが、「オーロラはいつまで見ていても飽きない」というひとが多いですね・・・。
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