ゴールドコーストが鬼ヶ島

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春先、冷たい青空にハナミズキの蕾が膨らみます。細い枝の先についた蕾のなんと可愛いことでしょうか。



 纒向(Makimuku)といういわくありげな名の遺跡から、2800個あまりの桃の種が見つかったというではないですか。
 
 学術測定では、135~230年、100年ほど幅がありますが、だいたいそんなもののようですから、それはいいとして、この桃の種の発見が、卑弥呼の邪馬台国が、奈良県桜井市纏向にあった証拠ではないかと邪馬台国大和説の学者は大騒ぎをしています。

 それらの桃の種が発見された場所は、この遺跡の中心的な建造物があった南。そこに掘られた穴から出て来たといいます。
 ですから、北ならともく、ゴミとして捨てられたにしては南側の穴は不自然だと言うことになるのです。つまり、これらの大量の桃の種は、ゴミではなくて、祭祀に用いられたのではないかと推測されるのです。

 晋の太元中のこと、武陵の漁師が、異境に立ち入った時も、そこに桃花の林があったと言います。あの『桃花源記』のお話です。
 『西遊記』には、不老長寿の桃がなる蟠桃園の管理人に任命された悟空が、そこでなった桃を食べてしまい、下界に落とされたという話もあります。
 中国でのお話ばかりではありません。
 『古事記』では、イザナギノミコトが黄泉の国から鬼女に追われて、やっとのことで、地上への出口へと通じる黄泉比良坂まで着いたときに、そこにあった桃の木から桃の実を三つを取って投げつけて、やっと逃れられたと言うお話があります。
 あの『桃太郎』の話は、桃から生まれた桃太郎が鬼退治するおとぎ話です。

 どうやら「桃」には、昔から何か偉大な霊力があると人間は信じていたようです。
 「桃」が持つ不老長寿や魔除けの効能は広く伝播し、邪馬台国の卑弥呼もなんらかの活用をしたその名残が2800個の桃の種だったのではないかと思っているのです。
 
 そこは卑弥呼の宮殿。
 高坏の上に、熟れる寸前の香り芳しい桃三つ。
 卑弥呼は、厚化粧の顔を高坏に近ずけて、そのうちの一つを手に取り、薄皮を剥いて、がぶりとやります。
 卑弥呼の口の中にしつこさのない甘さに満たされ、そして、高貴な香りが鼻に抜けていきます。口元には桃から溢れ出た汁がこぼれ、それを卑弥呼は舌でくるりとひと舐めします。
 あっという間に、卑弥呼は、三つの桃をすべて平らげてしまいました。そして、高坏の上に残された三つの種をじっと見つめます。
 種は、桃の実の一欠片もまとっていません。
 卑弥呼の目は、果の物を食する女から、祈祷師の威厳をもった女に変わっていました。

 桃の種にはどれも鋭く深い切れ込みが入っています。
 まるで、その昔、この地球上に火の神が舞い降りて、あちらこちらで火を噴いたあの時代を思い起こさせるに十分な容貌です。
 卑弥呼は三つの種から一つを選び、それを厳かに両手で掴み取り、祭壇に設えられた火の中に焚べるのです。
 パチンパチンと音がしだします。
 それを取り出し、そのヒビの状態から吉兆を占うのです。
 残された二つの種は、宮殿の南に掘られた穴に放り投げられました。

 きっとそうやって、邪馬台国の安泰を願ったに違いないと想像したのです。
 
 <三四郎は礼を言って、一つ食べた。髭のある人は好きとみえて、むやみに食べた。三四郎にもっと食べろと言う。三四郎はまた一つ食べた。二人が水蜜桃を食べているうちにだいぶ親密になっていろいろな話を始めた。その男の説によると、桃は果物のうちでいちばん仙人めいている。なんだか馬鹿みたような味がする。第一核子の恰好が無器用だ。かつ穴だらけでたいへんおもしろくできあがっていると言う>

 卑弥呼の祈祷の場面を想像していたら、漱石先生の『三四郎』の一場面を思い出しました。のちに広田先生と呼ばれる、その男の桃の種に関する講釈です。

 どうも、桃は古今を問わず、人間になんらかのインスピレーションを与えてくれるようです。

 ここはゴールドコーストの、ロビーナのマーケット。
 日本では高価な桃が、キロ5オーストラリアドルで売られています。普段、買い物をあまりしない私でも、これは安いと思うのです。
 形は、日本のに比べて幾分小ぶり、でも、色は濃く、過去食べた経験から、その爽やかな甘さは伝わって来ます。
 オージーは洗わないでこれを丸かじりしますが、私は日本人ですから、水でさらっと洗います。私は日本人ではありますが、ここの桃は皮を向かずに皿を口元に当ててかぶりつきます。
 
 あぁ、幸せだ。
 大好きな桃をこんなにたくさん丸かじりできるなんて、生きて来たかいがあるというものだと大げさに思うのです。

 私のちょい住みするロビーナの宅の裏庭の鉢の中に、私が滞在中食した桃の種がもうすでに二鉢も山盛りになって置かれています。
 もし、後世の人が、この鉢に山盛りになった桃の種を見たら、どんな想像をするのかしらと思うのです。

 ゴールドコーストこそ桃太郎が鬼退治をした鬼ヶ島だなんてうそぶく奴がいるかもしれません。




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