ノボさんのボール

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近くの野球場に行った時でした。子供達のチームが試合をしていました。何人かのお母さんがネット裏から子供達の様子を見ていました。サッカーが今は人気だと聞き及んでいましたが、まだ、野球も健在、安心しました。


 ロシア・バルチック艦隊を破った時の連合艦隊参謀秋山真之が、若き日に通っていたのが「共立学校」、現在の開成高校です。
 その同級生の一人が同郷の正岡子規でありました。

 幼名<升(のぼる)>から、同郷の者は、子規を「ノボさん」と呼んでいました。

 大学予備門共立学校から、東京帝大文科に入学した「ノボさん」は、ここで一人の親友にめぐり会います。
 後日、松山にある萬翠荘の愚陀仏庵に下宿する青年です。

 「ノボさん」はその下宿の一階に居候し、東京育ちのその親友は二階に暮らします。
 この親友こそ、帝大を卒業し、英語教師として赴任して来た夏目金之助こと、漱石先生なのです。
 才ある人物の周りには、これまた才ある人物があるものだと感心をするのです。

 「ノボさん」、大学にいた頃、あるスポーツに夢中になります。
 棍棒で小さな丸い球を弾いて、敵が守る塁を落として行くのです。敵の塁を四つ奪えば点が入ります。
 すなわち、ベースボールというものです。
 あまりに、「ノボさん」夢中になり、東京にある大学に声をかけて、このスポーツを流行らせ、日本のベースボールの礎を作った人言われるようになったのです。

 ノボさんのボール。
 ノ<野>ボさんのボール<球>で、『野球』になったとか、そんな話が伝わります。

 五月十六日、エンゼル・スタジアム・オブ・アナハイムでのアストロズ戦は見応えがありました。三十五歳のジャスティン・ヴァーランダーの投げる球に、二十三歳のエンゼルス大谷翔平のバットが空を切り続けたのです。
 
 四打数無安打、三つの三振を喫したのです。

 Verlander、アメリカ人にしては、あまり聞かないと姓です。オランダやドイツに多い姓と言いますから、きっと先祖はそこらあたりからアメリカに移民して来たのでしょう。
 十三歳の時にはもはや父も相手ができないほどのスピードボールを投げたと言いますから、ベースボールの天才であったのです。

 一方の大谷翔平も、小学校3年の時に野球を始め、いきなりチームが全国大会に出るのですが、キャッチャーが怖くて体が逃げてしまうくらい球が速かったと言いますから、これもまた天才のベースボーラーであったというわけです。

 試合を見ていますと、必死の形相のヴァーランダーの表情が伝わって来ました。
 投球する前、キャッチャーマッキャンのサインに首を振ります。何としても打たせたくはない、あのバットが空を切る球を投げるのだという必死の形相です。
 ですから、その時間の長さに、大谷がバッターボックスから離れる場面もありました。
 大谷もまた、絶対に打ってやるという怖い顔でバーランダーを睨みつけます。

 六回の第三打席での出来事でした。
 次の投球をカーブにするか、外角高めの速球で挑むかバーランダーは考えていました。
 大谷は、ヴァーランダーは次の球に勝負をかけてくるはず、だったら、何が来てもそれを打って行くと心に決しました。

 ボールカウントはツーボールツーストライク。
 バーランダーの投げた球は、外角高めの速球、ボール球でした。
 大谷は体を伸ばし、バットを振りました。 
 
 贔屓のチームや選手が不甲斐ない戦いぶりをしますと、がっかりするのがスポーツ観戦の常道ですが、この日は違いました。
 プロ中のプロ、野球の天才同士の真剣勝負を四つも見せてもらったのです。しかも、うち三つは三振です。

 試合後、ヴァーランダーは言います。
 「大谷が今後もケガをしないで活躍することを願う。自分がおじいちゃんになった時に『あのすごかった選手から2500個目の三振を奪ったんだよ』と言いたいからね」と。
 大谷もまた、「いくら払ってでも経験したい価値のあるボールだった」と。

 かくも素晴らしい言葉のやり取りがあるでしょうか。

 私が、<ノボさんの球>が好きなのは、打って、走って、投げて競う単純なゲームを、真剣に、正々堂々と戦う天才がいるからなのかもしれません。

 スポーツはこうでなくてはなりません。

 ノボさんが、<ノボさんの球>で勝つための戦略を滔々と語る姿から、秋山真之はあのバルチック艦隊を全滅させるヒントを得たのでないか。
 ノボさんが、<ノボさんの球>を、楽しく、快活に、大きな声を出して、漱石先生と興じる中で、漱石先生は深く熟考し、かつ、ユーモアのある作品をものする契機をつかんだのではないかと勘ぐったりもしているのです。




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