土曜の昼下がりの白昼夢

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ヘリコプターの操縦席のこの球に近いガラスの風防装置。見るたびに、これを作る技術はすごいと思うのです。いい加減に作れば、飛行や速度に影響が出ます。何より、搭乗する人たちの安全にも影響します。ヘリでどこが好きですかといえば、随所に見られるこの球体の形なのです。それにしても、よくもまぁ、このような乗り物を考えました。人間ってすごいと思うのです。



 「サミット」が世界首位に立ったというニュースがありました。

 サミットといっても、仲間割れするG7でもなければ、米朝の歴史的会談でもありません。ましてや、SCOなどというケチな会合を指しているわけではないのです。
 
 アメリカのエネルギー省管轄のオークリッジ国立研究所が設置したスーパーコンピューターの名前が「サミット」というのです。
 その「サミット」が、1秒あたり20京回の計算速度を達成したというのです。
 ちなみに、京という単位は、1兆の1万倍ですが、そう言われても一向に見当もつきません。

 かつては世界一の速度を誇った日本のスパコン「京」と比べると、その速度は約20倍にあたるといえば、少しは感覚に響くかと思います。
 現在、世界のスパコンのトップレベルに位置しているのは、「神威太湖之光」という中国製造のものですが、「サミット」はこれを抜いたということになります。

 なんでも、「サミット」の大きさはテニスコート二個分あり、中央演算処理装置(CPU)を9216個、画像処理半導体(GPU)が2万7648個、記憶装置は250ペタを備えているというのです。
 そう言われてもよくわかりませんが、私が毎日使っているMacBook Proなど足元にも及ばない巨大なコンピューターだということはよくわかります。

 しかし、1995年にパソコンが私たちの書斎に入り込んでから、まさに言葉通りに飛躍的に成長を遂げてきたと言っても過言ではないのが、この手のマシンの能力です。

 これらのマシンによって、人類は「拡張の世紀」を迎えるのだと、あちらこちらで目にし、耳にすることが多くなった昨今です。
 
 テクノロジーが、日常生活を拡張し、スマート化を果たすという家電は、我が宅にはまだありません。
 扇風機のスイッチを入れ、ソファにどっと腰掛けて、今度はテレビのスイッチを入れるという「前未来的」な環境の中で、アンスマートな生活を送っています。

 先日はキッチンの、手のひらをかざせば灯りがともる蛍光灯のセンサーが壊れて作動しないので、設置してくれた某電機メーカーに電話したら、二十年も前のものを直す手立てはないと冷たく言われてしまったくらいなのです。
 ですから、私の日々の行動も、スマートとは言えず、ガレージを開けるときも、車のエンジンを始動する時も、すべて何事も手間暇かけてそれを行なっているというわけです。

 夕方になり、腹が減って、どこかにあるスピーカーに向かって、pizazzといえば、自動的にpizazzが出てくる家になるにはきっと私が生きているうちには不可能ではないかと思っているのです。

 だって、今の状況に、それでも私はかなりの満足感を持っているからです。

 それでも、人工知能は着々と拡張を繰り返して、私たちの生活に入り込んでくるでしょう。
 出かけようとすれば、玄関で傘を持っていけとか、今日の会合にその服装ではダメだとか、きっと言うようになると思っているのです。
 拡張とは、人間をより自由にするものではないのかと怒っても、人工知能はお構いなくダメ出しをしてくるのです。

 私の命も拡張機能で大きな変動をきたすのではないかと思っています。

 ガンで切除した腎臓も、埋め込み型人工腎臓が開発されて、私の腹のなかに戻され、私の健康はさらに向上をします。
 私の肝機能が弱る可能性があると言うので、私はゲノムを再編集して、その可能性を除去し、ますます肝機能の数値は絶好調の値を示すようになりました。
 膝が弱く、卓球のシュートにも勢いがなくなった私は、思い切って膝に人工軟骨を植え込みました。すると、若き日のように両足を勢いよく動かして走れるようになったのです。
 街行く人々の中には、皮膚を移植して、五十歳には見えないくらいの肌ツヤの良い女性が闊歩しています。

 肉体的な能力の拡張ばかりではありません。
 精神的な弱さを克服するテクノロジーも、とりわけ、精神的に弱い人たちに拡張機能を与えてくれました。
 自分の弱さがまるで夏の入道雲のように、心を覆うようになると、お前はすごいぞ、なんでもやれるぞ、自分に克て、負けるなと激励をしてくれるのです。
 自殺をせよと心に悪魔が囁けば、テクノロジーがその悪魔を叩きのめし、人類にとって自殺などと言うわがままは、はや過去のものになっていったのです。

 何よりも仮想を現実にまで拡張する変化ほど人類のあり方を変えたものはありません。

 ……中国の横暴な姿勢、世界から嫌われようが、国際社会の取り決めを足蹴にし、言うことを聞かなければ足蹴にするあの姿勢が21世紀のある時期、人類を混乱に陥れましたが、これに伴う仮想があまりに過酷な中国の未来を示し、これ以上の悪態をつけば、中国は政権の転覆につながると言う現実を突きつけられて、中国が世界から愛される国になっていったことは仮想が現実を変えた最も有効な例として人類史に刻まれたのでした。

 そればかりではありません。
 拡張による変化は、個人レベルで作用をすることになり、人々は自分の未来をかなりの精度でつかむことにもなったのです。ですから、起業による失敗も、投資による損失も、夢だけに頼る人生の敗北も、人類は経験をすることはなくなったのです。
 皆が平和で、穏やかに、笑みを浮かべて日々の暮らしをする時代になったのです……

 耳元でヤブ蚊の羽音がうるさく響きます。
 どうやら、ウッドデッキで、土曜の気の緩みか、うとうとしてしまったようです。
 「コーヒー」
 そう言っても、どこからもコーヒーは出てきませんでした。

 私はホッと心を落ち着けたのでした。




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