とどめの一撃

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初夏の酷なまでの陽の光の中で、樹木が輝いています。人間はうんざりですが、彼らにとっては嬉しい光なのだと思っているのです。



 彼は著名なカード名人です。
 と言っても、まともな名人ではありません。彼はトリックを使うのです。
 一言で言えば、<いかさま野郎>なのです。

 その<いかさま野郎>が、それまで誰も相手にしなかったあの<太っちょの詐欺師>に絡むことを決意するのです。

 <いかさま野郎>は、この辺りでは、相手になるものがいないくらいの手下を持ち、稼ぎも立派なものです。
 それでも、時代の趨勢でしょうか、<いかさま野郎>に追いつこうと、そして、縄張りを広げようと躍起になってきた<モッタリのチョウ>というやくざ者がのしてきました。

 周りのシマにちょこっと立ち寄っては、せこい脅しを掛けます。
 相手が脅しに乗るようであれば、つけこんでいきます。

 お前さんに、金を貸してやるよ、これでお前さんのシマを豊かにすればいい。
 なに、これはほんの手土産だ、お前さんの懐に入れときな、遠慮はいらねぇ、そのくらいのことをしてもいいくらいのお前さんはご身分なんだから、と言葉巧みに誘い掛けます。

 最初は、親切一点張り、次に、あれだけ親切にしてやったんだ、おいらの組の事務所くらい置かせておくれよ、若い衆の保養にあんたのシマの素晴らしい景色を見せたいんだと言い出すのです。

 それに腹を立てたのが、あの<いかさま野郎>です。
 それまで、俺様のいうことはなんでも聞いていたのに、あいつら<モッタリのチョウ>にしてやられているじゃないか。
 そこで<いかさま野郎>、自慢の手下を<モッタリのチョウ>のシマ近くで少々暴れさせます。<モッタリのチョウ>の手下も黙っていません。
 あわや衝突という段になって、<モッタリのチョウ>が、<いかさま野郎>に、手打ちを申し出ます。

 親分のお力は、あっしは十分にわかっていまぜ。
 だから、どんぱちでカタをつけようなんて、これっぽちも思ってやいません。
 どうです、あっしも随分と、自分でいうのもなんですが、手広くやっていけるようになってきました。そこで、東と南のシマをあっしらの領分として認めてくれませんかね。なに、悪さをしようっていうんじゃないですよ、この辺りは昔から、おいらの祖先が仕切っていた場所ですからね、あっしら祖先を大切にしますんで、それだけはわかって欲しいんですよ。

 <いかさま野郎>も男気があるので、先祖を大切にするなんてこと言われれば、そういうもんかと、よし、わかった、でも、いきすぎた真似はするなと釘をさすのです。

 しかし、所詮、やくざ者。

 <モッタリのチョウ>は、相変わらず、南に、東に、威嚇を繰り返し、気がつくと、事務所をあちらこちらに作り、実質的な影響力を行使し始めたのです。

 だから、<いかさま野郎>は、あの<太っちょの詐欺師>にちょっかいを出したのです。

 あいつら裏で繋がっているんだ、おいらの先代が甘い顔しているから、<チョウ>のやつの勢力を大きくさせてしまった。これを叩くのは当代のおいらの役目、先々のおいらたちのシマを守るためには、やらなきゃいけない。
 そう思って、<いかさま野郎>は、<太っちょの詐欺師>と手を組もうとちょっかいを出したのです。

 慌てたのは<モッタリのチョウ>です。

 あいつらが手打ちすれば、捨て置けねぇ、おいらの立場はとんでもないことになると、そこで、<チョウ>は<太っちょ>に、<いかさま野郎>は一筋縄ではいかねぇよ、おいらが後見人になってやるから、弱気はいけねぇよ、堂々と振舞って、あいつが喜びそうな言葉をたくさんはくんだ。いつだって、おいらはそうしてきた。

 立場が悪かった若い頃は、へいこらへいこらして、なんとか、身内の親分たちの怒りに触れないようにしてきた。おいらは、鋭い爪を隠して、口の端に笑みを浮かべていたんだ。世の中は、いつまでも同じ流れが続くもんじゃない。きっと、いい時代がおいらにも来るってね。みろや、いま、おいらの時代がもうすぐそこまできているじゃねぇか、悪いことは言わない、おいらのいうことを聞いて、あいつと一騎討ちしてきな。

 <いかさま野郎>って奴は、自分では頭のキレる親分だと思っているが、本当は大馬鹿野郎だ、と腹を抱えて笑ったのです。

 <いかさま野郎>が、おいら騙されているんじゃないかと気がついたのは、それからしばらくしてからです。
 あの野郎、口ではうまいこと言って、やることしてねぇじゃねいかと、悪態をついたのです。
 きっと、<太っちょ>の後ろには<チョウ>の野郎がいるに違いない、とも思ったのです。

 しかし、<いかさま野郎>は、<チョウ>も<太っちょ>も一切おとしめません。彼が本当に、心底から怒った時、彼は反対にその相手を褒め称えるのです。

 相手を安心させるというのではないのです。
 彼は本当に怒りを感じた時は、相手を褒め称えるのです。それを、彼をよく知っているものたちは、<舌舐めずりするトカゲ野郎>って呼んでもいるんです。

 <いかさま野郎>がまず手を打ったのは、金の出所を押さえることでした。
 <モッタリのチョウ>が逆さになっても、<いかさま野郎>の経済力には叶いません。金を押さえられれば、にっちもさっちもいきません。
 悪い時には悪いことが起こるものです。
 それまで、騙し騙し手なづけてきた小さなシマの親分たちが手のひらを返したように逆らいはじめてきたのです。

 そんな成り行きを見てあの<太っちょの詐欺師>が不安になります。
 <いかさま野郎>を怒らせたに違いない、やつはきっと、威勢のいい若い衆をこちらに向けてくるに違いない、なにが<モッタリのチョウ>だと、不平を言い出しました。

 そうなれば、この抗争は振り出しに戻らなくてはなるめぇと、<いかさま野郎>が嫌う、阿漕な手を復活させたのです。

 <いかさま野郎>が言います。
 あいつらはなんていう奴らなんだ。
 こちらに少しの犠牲も出さずに、とどめの一撃を加えられることをここらで見せなくてはないけねぇなと、あちらこちらから若い衆を集めたのです。 

 若い衆たちは、それぞれに示し合わせて、<モッタリのチョウ>のシマの周りに出張って、一歩も動けないようにして、<太っちょの詐欺師>のシマに襲いかかったのです。

 口では強気を語っても、<いかさま野郎>の一撃を打ち返すことはできません。
 <太っちょ>、外聞もなく逃げまくり、挙句に、自分のところの若い衆にやられてしまったんです。
 以来、<モッタリのチョウ>も、好き勝手ができなくなったというのです。

 まぁ、<いかさま野郎>であれば、なんとか我慢ができるだろうと、周りのシマの連中も、矛を納めて、この抗争は一旦は落ち着いたということさ。





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