洒落た野次

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このような素晴らしい夕景が見られることを願っているのです。この素晴らしき国の素晴らしき自然を愛でる日が早く来て欲しいと。つくばは平穏なり、その平穏な土地から、救われた命の記事を読み安堵し、後始末に汗を流す姿を見ては、かつての自分を思い起こしているのです。


 教員をしていたときのことです。

 生徒の携帯電話が、静かな教室で、受信の際のけたたましい音楽を奏でました。決まりで、その生徒の携帯電話は取り上げることになっています。
 生徒は反省文を書き、親に連絡をされ、二週間、携帯電話を使うことができなくなるのです。
 
 いや、決して、私が作った決まりではないのです。
 
 でも、決まりである以上、教員たるものそれを守らなくてはいけません。
 教室にいる誰もが、その決まりを熟知しているのですから、お目こぼしなどしたら、えらいことになります。

 あるとき、全校朝礼があり、上司が威厳を持って生徒に語りかけていました。

 すると、突然、大きな不可解な音声がマイクで増幅されて、私たちの耳に達したのです。
 私は、その時、担当で集会の司会をしていました。
 その音に驚き、後ろの放送担当の生徒のところに行き、何があったと目で合図をしたのです。放送を担当する生徒も何が起こったのか皆目見当がつかないという表情です。

 すると、壇上の上司、おもむろに懐に手を入れて、携帯電話を取り出し、スイッチを切っているではないですか。

 それからが大変です。
 勇気ある生徒の代表が、自分たちには罰則があって、教師にはないのかと談判に来たのです。
 もっとなことです。
 当たり前のことです。
 しかし、だからと言って、私が上司の携帯を取り上げるわけにも行きません。
 大人っていうのは、忙しいんだよって言ったって、生徒がそうですかと引き下がるとも思えません。
 
 この件は、私の教員生活の中で、もっとも困った問題の一つであったのです。

 先日、CNNの記事に、英国下院議会で、国防大臣のウィリアムソンがシリア国内のテロ勢力について英国政府の立場を説明している時でした。
 
 iPhoneに搭載されている人工知能のSiriが作動してしまったのです。

 シリア情勢を分析している国防大臣の発言を遮る形で、「ウエブ上に、あなたが必要とする情報を見つけました」と英国訛りの男の声で発言があったのです。

 携帯の時代なら、着信音です。
 しかも、個性あるそれが着信音であれば、なおさら、衝撃的です。
 しかし、スマホの時代は、そればかりではないのです。

 国防大臣、おもむろに、懐に手を突っ込み、「不思議なことが起こるものです」と一言、議場には笑い声が起こりました。
 ちょっと、手間取りましたが、iPhoneのスイッチを切り、そして、謝罪をしました。

 英国人らしく、彼はウイットでこの気まずい雰囲気を打破するのです。

 「携帯電話に野次られるのは非常に珍しいことですね」と。

 再び、議場に笑い声が起こります。
 「確かにそうだ」と、野党からも野次も飛びます。

 国防大臣、議長に再度発言を求めます。
 「今度は、Siriの助けを求めずに発言をしたい」と思いますと。

 議長がなんと言って発言を許可したかはわかりませんが、どこかの国の国会のように下卑た野次の応酬とは違って、スマートな対応だと感心をしたのです。

 で、私、あのときのことを思い出したと言うわけなのです。
 
 あのとき、上司は、何も言わずに携帯の電源を切り、何事もなかったかのようにつまらない話をそれから30分もやったのです。
 もし、上司がちょっとは洒落た言葉で生徒の気持ちをほぐしていたら、生徒たちはきっと、私のところに来て、目くじらをたてることもなかったろうと思っているのです。

 『君たちが友人の勉学の邪魔をしないよう、携帯の電源を、授業中には切るように言っているが、今日、私は君たちが一生懸命私の話を聞く姿勢になっているのを、私自らの携帯の着信音で邪魔してしまった。それはきまりを破ったことになる、よって、今後二週間、私はこの携帯を担当の先生に預けることにする、反省文は、ここでの君たちへの謝罪で免じてもらいたい。私の妻への連絡は甘んじて受けようと思うなんて……。』

 そんなことを言ってくれたら、あの生徒たちです、きっと、拍手で返したのではないかと、思っているのです。





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