僕は拾われた子


ロードバイクを走らせる自転車道がつくばにはあります。霞ヶ浦を一周し、筑波山を半周する壮大な道です。そんな道をたまに走るのです。


 ふと、思い出してしまう、そんなことが私にはあります。
 若い頃から、今に至るまで、そのことが、唐突に、思い出されるのです。

 その子の名前を今でも覚えています。
 でも、顔の作りや表情はどうしても思い出せないのです。

 そこは住宅街でした。
 一戸建ての、今から思えば、さほど広くはない敷地に、モダンな建物が建てられ、私が暮らす粗末な住宅とは比べ物にならないくらい、綺麗な建物が集まる場所でした。
 近くに公園があり、中学校がありました。
 その公園で、ちょっと悪そうな中学生がたむろして、タバコを吸っていました。
 中学校の先生が自転車に乗って、その中学生たちを追いかけているのを、私はなんども目にしたことがあります。

 でも、そんな街に、ふさわしくない、不自然な場所があったのです。
 
 ゴミ山です。
 捨てられているのは、ビニールテープでした。
 不良品でしょうか、ベトベトになって、雨ざらし、赤や黒、それに白のテープが、それこそ山のようになって捨てられていたのです。

 きっと、早くにそのごみ山を撤去しろと住民は陳情をしていたのだと思いますが、子供の私には良くわかりません。
 
 でも、子供たちにとっては、このゴミ山、格好の遊び場所であったのです。
 ビニールテープの他に、工場で作られるいろいろなものが捨てられていたからです。
 中でも、テレビのブラウン管を見つけると、私たちの目は輝き出します。誰が言うでもなく、皆、一様に、そこらへんから拾ってきた石ころを手にしています。
 ジャンケンをして、順番に、ブラウン管めがけて石を投げるのです。
 距離は、どのくらいだったのでしょうか。野球をするとき、ピッチャーがキャッチャーに投げ込むくらいの、もちろん、子供であった私たちの見当ですが、そこから投げるのです。
 しかし、これが意外に当たらないのです。
 でも、当たれば、ボンッと軽快な音を立てて、ブラウン管が木っ端微塵になるのですから、愉快この上ないことなのです。

 コンクリートでできた土管のようなものもおかれていました。
 端っこが欠けているので、それで破棄されのでしょう。よじ登り、中に入り、秘密基地作りの格好の道具になります。
 
 手頃な長さのプラスチックの水道管も落ちていました。
 私たちは、家から木材の歯切れを銃床に似せてのこぎりで切り出し、それを持ってきて、針金で水道管を取り付けます。
 片方を粘土を詰めて塞ぎ、ポケットから2B弾を取り出し、それに点火し、水道管の中に入れます。そして、狙いを定めます。
 2B弾は爆発し、水道管の先から白い煙がすっと吐き出されるのです。
 今度は、もう片方のポケットからビー玉を取り出し、2B弾を入れて、次に、そのビー玉を入れます。ビー玉が2B弾の爆発力で水道管の先から飛び出します。
 
 子供たち数人で、水道管の銃を構え、バンバンと音を立てて打ち合うのです。
 これほど面白い遊びはありません。
 でも、ある時、近くを自転車でパトロールするおまわりさんに見つかり、言葉通り、蜘蛛の子を散らすように逃げたこともありました。

 そうした遊びをする仲間の一人にKadowakiくんがいたのです。
 あの洒落た新しい住宅に住む少年です。

 ある朝、起きて朝ごはんを食べている時、新聞の記事を父親から差し出されました。
 ゴミ山のコンクリートの土管で火災があって、少年が一人亡くなったと言う記事です。
 その少年がKadowaki君だったのです。

 その日から、ゴミ山の周囲には鉄条網が張られ、ダンプが出入りし、ゴミの撤去が急ピッチでなされていました。
 私は、毎日、その近くを自転車で行き来して、次第に平坦になっていくごみ山を眺めていたのです。Kadowaki君が焼け死んだ土管は最後までそこにおかれていました。
 
 なんで、Kadowaki君はあの夜、一人でゴミ山の土管になど行ったのだろうか。
 
 しかし、その疑問に答えてくれる大人は誰もいませんでした。そんなことを聞くと、ひどく怒られたものでした。触れてはいけない、何か、特別な理由でもあるかのように、そのことを大人たちは忌避したのです。
 私はKadowaki君と話をしたことがあります。

 僕は拾われた子なんだと言う話です。

 でも、あの時代、親たちは、悪さをする子供に、サーカスに売り飛ばすよとか、お前は橋のたもとに捨てられていた子だとか、よく言っていた記憶があるんです。
 私たちの親がきっと自分たちが子供の時に、自分たちの親に言われていたからだと思います。
 だから、「僕は拾われた子」と言われても、なんら、違和感なく、「そうなの」くらいにしか受け止められなかったのです。

 それ以来、私の心には、Kadowaki君のその言葉とあのゴミ山の光景が、時折、押し寄せてくるのです。
 まるで、Kadowaki君が語りかけるように「僕のこと、わすれるなよ」って。





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