あの日 あの時


近くの公園に置かれているこの「遊具」。一体、どうやって遊ぶのかと不思議に思っているんです。だって、子供が遊ぶには、高すぎます。大人だって。不思議な遊具だって、いつも思って通り過ぎているんです。


 我が宅のテレビに、泥水が入った無惨な家の姿が映し出されます。
 ひっくり返った冷蔵庫、ヘドロで埋まった床、ただただ呆然とするしかありません。
 しかも、三十度を超える暑さが被災者を襲っています。

 あの日

 竹ノ塚で水害にあって、私の家を含む一帯は床上まで浸水しました。
 しばらく、水が引かずに、区役所の方が、ボートに乗って、毛布と乾パンを届けにきてくれました。
 水が引くまで頑張れと言う言葉を残して、そして、水が引いたら、今度は消毒のため、荷台にタンクを積んだ三輪トラックが一軒一軒、丹念に消毒をしていきます。
 当時は、どの家も水洗トイレではなく、家まるごと、庭も垣根も、すべてに消毒液を散布しなくてはならなかったのです。
 まだ、小学生であった私はこの異常事態を、幾分楽しんでいたことを覚えているのです。
 あの時代の竹ノ塚は、駅前からして地盤が低く、ちょっとした夕立でも、水が入り、勤め人は革靴を手にして、ズボンを膝まであげて、帰宅を、それも楽しげにしていた、そんな時代でした。

 あの時

 それは、三月でした。
 大きな揺れが始まり、連発する大きな地震に、ただならぬ気配を感じたのです。
 避難した校庭には、雪が舞い始めました。
 無事、生徒たちを親の手に渡したのがよく未明のことでした。
 とことん疲れて、一旦家に戻り、仮眠をし、また、学校に戻りました。
 今後の対応を決定するためです。
 水は出ない、電話も通じなくなっている、耐震工事を施した校舎であるけれど、とてつもない大地震がきたら、この6階建ての校舎は、耐えきれるのか。
 さらに、隣県では原発が異常な事態に入っている、放射能汚染の危険もある。
 太平洋に面した港町は、津波の被害を受けている、霞ヶ浦は大丈夫かなど、心配することばかりで、学校は暫時休校の処置を決定しました。
  
 さて、今度はつくばの宅です。
 書架からこぼれ落ちた書籍を戻します。
 きっと地震の揺れで引き出された机の引き出しの上に、書架から落ちてきた本で、引き出しは壊れて閉まらなくなっています。
 あれもこれもとやることの多さに、途方にくれていると、長女の嫁ぎ先から婿殿の兄弟が一時間程度で来れる埼玉から四時間もかけて応援に駆けつけてくれました。
 大量のペットボトルに入った水と、食料を持って。
 そして、一時間程度ですが、キッチンの棚から落ちた食器類の清掃を手伝ってくれて、また、渋滞する道へと戻って行ったのです。

 近所の農家の屋根瓦はズレ落ち、どこもかしこも青いブルーシートがかけられています。
 新興宅地の自宅周辺では、さすが、耐震設計がものをいって、そのようなシートをかけることはありませんでしたが、どの家も「水」に困っていました。
 春まだ浅き頃ですから、風呂に入らなくても、大抵は我慢ができます。しかし、水洗トイレには困りました。あれ、随分と水を使うのです。
 何事も我慢と心しますが、生理現象だけはどうにもなりません。

 このような災害の時、何よりも頼りになるのは、遠い親戚ではなく、近くの他人、すなわち、ご近所です。
 何をするわけではないのです。
 ただ、言葉を交わすだけで、ホッと心が安心するんです。
 缶詰をいただいたり、ペットボトルの水をあげたり、そうしたちょっとしたことが力になったのです。
 ガソリンが買えず、車での移動も遠慮がちになります。
 だから、皆、公園に集まって、ちょっとしたものを持ち寄り、BBQらしきことをやろうと誰かが声をかけます。
 集まってきた人は少ないけれど、それでも、激励をしあいながら、明日への希望を見つけるのです。

 西国の人たち、自衛艦に設置されたお風呂に入る様子が報道されていました。
 五日ぶりの風呂だと言います。
 本当にいい顔していました。
 地域の若者たちが押し寄せてきた泥を袋に入れて土嚢を作っています。きっと、炎天下の中でしょう、言葉こそ少ないですが、自分たちの生まれたところを水から守ろうと必死の表情は、何ものにも代え難い美しいものでした。

 世界気象機関というのがあります。
 世界各地で、予想もしない降雨量、高温気象が頻発と発表しました。
 その筆頭に、西国での災害をあげて、台風と連動しての大雨が原因と述べています。
 アメリカでは、カリフォルニアのデスバレー公園で52度という記録が観測されました。アルジェリアでも51度が観測、北の大地北欧では気温上昇で干ばつが心配されている言います。
 
 日本だって、この気温、決して夏だからというわけではないのです。
 
 今、我が宅には大きなペットボトルの空きを捨てずにそこに水を詰めて、ウッドデッキの端に蓄えています。その数、百本近くになんなんとします。
 ガレージの冷凍庫には、釣りの餌に加えて、万が一の非常食が、一階の床下倉庫にも、乾物や乾麺、それに毛布や灯油が保管されています。
 ご近所に配布しても、少なくとも三日は大丈夫だろうと踏んでいるのです。

 あの日 あの時の
 教訓を生かして、生き延びなければと思っているのです。



自分らしさランキング

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

nkgwhiro

Author:nkgwhiro
ご訪問
ありがとうございます。

《 9/23 🎂 Sunday 》
 
🦅ただいま、<Puboo!>にて、『nkgwhiro短編作品集「ある夏の五つの物語」』を発信しています。今回は有料作品となります。五つの物語のうち、試し読み作品をひとつ設定してあります。ぜひ、お目を通してくださればと思います。

<15.304字 400字詰原稿用紙38枚                            夏は、物語するにもっとも良い季節です。
開け放たれた扉の向こうから、異人たちも遊びにきてくれます。出かけた先でも、異人たちは向こうからやってきてくれます。
そんな異人たちとの出会いを綴った「nkgwhiro短編作品集」です。>

下の[リンク]欄からアクセスして読むことができます。

❣️<Twitter>では、『ものかき』として、朝と晩『つくばの街であれこれ』の更新情報をつぶやいています。下の[リンク]欄からアクセスができます。

⏬下の[リンク]欄から、歴史小説『一門』『福明と李福』、旅行記『ポーツマスの旅』、また、<水彩画>など、<nkgwhiro>の創作活動にアクセスができます。  

皆様のアクセスを心よりお待ちしております。🙋‍♂️

リンク
最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
フリーエリア