さんまは苦いかしょっぱいか

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つくばにある洞峰公園池をのぞむの図です。こういう光景が好きなんです。拓けていく、広いところへと出ていく、そんな気がするからです。酷暑もひと段落と今朝のNHKが言っていました。本当にホッとしています。ニュースを聞いて、ホッとするなんて珍しいことです。



 阿辻哲次が、連載している日経の日曜日の記事「遊遊漢字学」で、『解』の字について、<牛のツノを刀で切り落としているさまを表していて、牛を解体することから、広く一般的にものを切り分けることを「分解」というようになった。だがもしもこの漢字がはじめから日本で作られていたら、《牛》の部分がきっと《魚》になっていたことだろう。>と書いていました。
 
 これまで、何度か中国を訪問しました。確かに、豚肉料理は美味しいものばかりでした。
 しかし、魚料理は川魚を素揚げして、そこに濃い目のたれをかけて食べるくらいで、これといった工夫がありませんでした。
 だから、日本と中国の違いは何かと問われたら、一方は魚を主として料理し、他方は肉を料理することに長けると説明しても決して間違いではないと思っていたのですが、どうも、昨今のニュースを見ていると、そうも言えなくなったと感じるようになったのです。

 先だって、北太平洋漁業委員会の年次会合があり、日本が提案した公海でのサンマの漁獲枠導入には中国などが反対し、昨年にひき続き合意できなかったというのです。
 日本人が好んで食してきたサンマが、丸々太って、つまり、美味しくなって日本近海にくる前に、中国や台湾の大型漁船が根こそぎとっていってしまうから、それは困る、規制をかけて日本の食文化を守ろうとしたのですが、中国は同意してくれなかったということなのです。

 マグロやクジラでは、日本は世界からバッシングを受け、漁獲制限を必死で守り通し、あるいは、本格的な漁獲を避けていますが、サンマにおいては、中国からはやられっぱなしというわけなのです。

 サンマは焼くと脂が出てきて、それが煙となり、これは体に良くないと、サンマの脂を焼きに焼いて抜き取り、小骨も多いから喉に刺さるといけないとこれまた丁寧に一本一本抜き取り、さらに、黒いはらわたなど食べさせてはなるまいと綺麗に削ぎ落とし、あのほっそりとし、美しいサンマもあれこれ手を入れられ、なんとも無様な姿になってしまったというのは、あの落語の『目黒のさんま』の一節です。

 つまり、美味しいところを全部取ってしまったわけですから、ぼさぼさの美味しくもない、かつ、美しくもない魚になってしまっというわけです。

 「さんま、さんま、さんま苦いかしょっぱいか。そが上に熱き涙をしたたらせて さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。」
 と詠んだのは、佐藤春夫です。
 師と仰ぐ谷崎、その妻千代との経緯について語ることは、今回は避けますが、この詩句の一説にもあるように、サンマのわたはちょっとした苦さがあって、それが魅力なのです。
 魚好きの日本人でしか、その良さはわからなかったはずだったのですが……。
 
 江戸の庶民は、そんなサンマが河岸にあがると祭りのように大騒ぎをしたと言います。
 安い値段で、あの銀色に輝くサンマを食することができるのです。一心太助もきっと、大忙しだったに違いありません。
 だから、サンマという魚には「鰶」という字をあてていたと言います。
 それが、あの佐藤春夫の『秋刀魚の歌』で、「さんま、さんま、さんま苦いかしょっぱいか。」とやられて以降、「秋刀魚」という字が一般的に使われるようになったというのです。
 
 中国で、日本人がそのほとんどを食べていた秋刀魚が食されるようになった原因は、日本食ブームにあると言います。
 ですから、屋台などで、秋刀魚を一匹串刺しにして、炭で焼いて売っていると言います。

 油であげたり、タレをかけたりする中国風の料理ではなく、まったく日本の食べかたで、調理されていると言いますから驚きです。
 秋刀魚の一匹丸ごとを食べることで、中国人民は日本を感じているのです。

 日本の国民には、なんの制限もなく、だから、ちょっと羽目をはずすこともあるけれど、街は綺麗だし、落とし物をすれば十中八九戻ってくるし、何しろ、若者も、老いた者も皆おしゃれで、生き生きしている。
 中国の人々は、秋刀魚からそんな日本を感じてくれているんです。

 あの国の民が、飽きるときがくるやもしれないし、よしんば、そうでなくても、江戸の昔から庶民の大好物であった魚が、いい働きをしているというのであれば、こちとら諦めるしかありません。
 
 我が国の食文化を侵略する中華帝国に宣戦布告なんて野暮なことは言いません。
 だって、あれだけ美味しい秋刀魚、その秋刀魚の味がわかってくれればそれに越したことはありませんと、江戸っ子の血をひく日本人は、鼻の頭を右手の手根部で軽くいなして、綺麗さっぱりと秋刀魚をお渡ししましょう、と。

 おいおい、勝手なこと言っちゃ困るよとお叱りを受けるかもしれませんが、日本の文化が、それも庶民の飾ることのない文化が、世界に知れ渡るのです。
 そう思って、どうですか、秋刀魚に変わる何か素晴らしいものをまた見つけようではありませんか。

 江戸っ子だって、あれこれ工夫して、てめぇたちの文化を作り出してきたんです。
 目先のことで目くじらを立てるのではなく、秋刀魚がなければ、ほかに何があるか、そのくらいのことは江戸っ子の子孫である私たちだったら探せるはずです。
 
 中国のことですから、きっと、取り尽くして数も少なくなり、秋刀魚は高級魚となり、そうなれば食べることも叶わなくなります。
 それに、そのうちきっと飽きもするでしょう。
 秋刀魚たちだって、本当に自分たちを大切に取ってくれて、食べてくれて、文化の高みにまであげてくれた日本人にまたわんさか食べられるのを待っているはずだと思いますよ。





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