あぁ、懐かしき哉 あの夏の日

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いつも植えては失敗を繰り返して来た我が宅のスイカ。今年は、ここまで大きくなりました。果たして、五年越しのスイカを今年は食べることができるのか。炎天下に、スイカに寄り添い、そっと撫でているのです。


 逆走台風のせいで、幾分涼しくなって、妙な錯覚に陥ってしまったのです。

 あの猛烈な暑さを体験しての涼しさですから、もう秋がすぐそこにきているのではないかという錯覚です。
 ふと、カレンダーを見れば、八月に入ったばかり、夏もこれからが本番なのに、秋のことを思うなんて、あれがいかにとんでもない気温の日々であったかを思い知らされたのです。

 一般企業に冷房が設置されても、学校はまださほどの設備がなされない時代がありました。
 授業を終えて職員室に戻ってくると、ワイシャツはびっしょりです。
 職員室には、生徒のテストやらなんやかやと書類が机上に置かれていますから、大きな扇風機もやたらに回すことはできません。かといって、ジャージに着替えて、授業に出ることができるのは体育の先生くらいなものです。
 あの暑さの中、ネクタイを締めて、喋りまくり、板書をしまくるのですから、相当なエネルギーを使っていたはずです。連続の授業であれば、汗を拭う暇もなく、次の授業にびしょ濡れでいかねばなりません。
 今、思うと、よくやっていたなと、いまでは到底不可能ではないかと思っているのです。
 
 もちろん、生徒だって、人数も多い時代でしたから、狭い教室にすし詰め状態、よくもまあ、窒息しなかったものだ、いまはやりの熱中症にならなかったものだと、これは奇跡に近いことではないかとも思ってもいるんです。

 中学生の時、私は夏休みがとても楽しみでした。
 午前中、それも朝早く、私は、洗濯を終えた母からたらいを借り受けて、それに水を入れて、机の下におきます。そこに足を突っ込むのです。
 そして、頭にはタオルを水に浸したやつでハチマキをするのです。
 「頭寒足寒」で頭をシャキッとさせて、午前中の勉強にとりかかるのです。
 
 それで勉強がうまくいったかどうかはわかりませんが、そのやる気は評価に値するものでした。そこに扇風機からの風がそよげば、難しい数学の問題も楽々と解ける、そんな風に思っていたのです。

 九十九里の田舎に詰めていた小学生の頃は、今日は暑いなと思って、おばさんに気温を尋ねると、まだはぁ、三十度にいっていないさぁ、と九十九里の言葉で言われたものです。
 つまり、暑さの極みは三十度であったということになります。

 大学生の時、万里の長城に行ったことがあります。
 そこでは、汚いコップに何やらわからないジュースを売っていました。到底買う気にはならずに、同行していた先生、この先生、お父上も著名な短歌の先生で、ご自身もその名を響かせていた方ですが、君、こういう時はビールだよと行って、ガラスの破片を乗せた汚れたジュースをやめて、ちょっと高価なビールをひと瓶買ったことがあります。
 中国では冷やしてビールを飲む習慣がありませんから、生ぬるいビールですが、そのびんの口から注ぎ込まれるビールが喉を潤してくれたことを覚えています。
 しかも、大陸は湿気がありません。
 その先生と木陰に入って、涼しい空気がそよぐ中で青島啤酒なるものをラッパ飲みをした思い出が蘇ります。

 夕方、庭のバケツの中には、スイカが浮かび、庭でとれた大きなトマトにキュウリ、それにナスが浮かんでいます。
 庭先には縁台が置かれ、隣近所から子供も大人も集まってきて、縁台の下には蚊取線香が焚かれ、それでも寄ってくる蚊を団扇で叩くのです。
 スイカを切り、今のように洗練されていないちょっと癖のあるトマトにかぶりつくのです。
 
 一旦、食事のため家に帰っていた子供たちも、薄暗くなるとまたやってきます。
 手には、花火の入った袋が握られています。
 皆で、線香花火をして、ひと時を過ごすのです。
 そんな夏が日本にはあったのです。

 あぁ、懐しき哉、あの夏の日!

 しかし、いつの頃からでしょうか。
 暑さが「凶器」になってしまったのです。

 ジャカルタでの思い出があります。
 ホテルのエアコンが効きすぎて、あまりに寒く、幾分暑さが恋しくなって、ちょっとホテルの周りでも散歩しようかと出て行ったことがあります。
 午後二時でした。
 ホテルの玄関を出ると、熱風が頬を伝ってきました。
 足元からは、まるでサウナの蒸気が吹き上がってくる、そのような感じでした。
 通りには、誰も出ていません。まるで、死んだ街のようです。当たり前だ。この暑さの中、外に出るのは死に行くようなものだと、ものの二分も経たないうちに、私はホテルに逃げ込んだのです。

 あのジャカルタの逃げたくなるような暑さを、今、日本で体験しているのですから、ぞっとします。
 その凶器にもなる暑さが、束の間の心地よさを打ち払って、戻って来たようです。
 逃げようもありません。
 なんとか、懐かしい暑さになるよう、心を砕くのですが、その心も吹っ飛んでしまうのです。
 
 あぁ、うらめしき哉、この暑さ!





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《 5/24 🏇 Friday 》
 
🦅 本日、<カクヨム>にて『天皇陛下の親指』を発信しました。


『天皇陛下の親指』



日々の生活の中で、ともすると、何気に見過ごしてしまうこと、そんなことにもちょっとした注意を向けてみますと、そこには奥深いものがあることことがわかります。
コアラの国に暮らす人々との関係を通して、私は飽きることなく、その奥深いものを感じ取っているのです。
そして、その奥深いものが、私が暮らす日本という国を見つめなおさせてくれるのです。
何気に見過ごすのではなく、意図して、身の回りのありようを感じ取っていくのです。
「私小説」という言葉が、日本にはあります。
だとするなら、これは「私的日常綴」ともいうべき代物なのです。

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