白きもの それは灯台

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サルスベリのすべすべした幹の白さ。思わず、手のひらを寄せて、撫でてしまうのです。ふと、上をみると、赤いサルスベリの花房が青い空に綺麗に映えていたのです。


 真新しいロッドを手にして、最初の釣り場に選んだ場所は、銚子のヨットハーバーでした。

 ネットで釣り情報を見て、ここがいいと直感で思ったのです。
 しかし、銚子の街の釣具屋さんで購入した餌のイソメがつかめず、つまり、針にイソメを刺すことができずに、私の最初の釣りは、一挙に観光へと変じてしまったのです。

 ヨットバーバーの先にあるあのドーバー海峡と同じ白い岩肌を持つ屏風ヶ浦、長崎鼻あたりの古びた漁師町、そして、あの白い犬吠埼の灯台。
 帰りには、漁港の販売所で生きている魚を買って、それをクーラーに入れて、自分で釣って来たかのような顔でそれを持ち帰ったのでした。
 なんとも情けない釣り師の誕生でした。

 今でも、イソメは手でつかむことができずに、特別の道具でそれを掴み針につけているのですから、困ったものです。

 それから釣りを本格的にするようになり、銚子の海岸べりをビートルで走っている時、折々に垣間見えるあの灯台の姿は実に美しいと思っていたことは事実なんです。
 釣りをしには行くのですが、あの犬吠埼の灯台にも会いに行く、そんな感じであったのです。

 でも、私、この犬吠埼灯台には一度も登ったことも、その周辺で遊んだこともないのです。
 いつも、遠くから垣間見るだけの白い灯台であったのが犬吠埼だったのです。

 実際に出かけて行った灯台があります。
 オーストラリアのニューサウスウェールズ州にあるバイロン岬にある灯台です。
 日本でも遠くから見るだけで満足していた灯台を、なんでオーストラリアにまで行って、わざわざ近くにまで行くのかと、私自身もそう思っているのです。

 バイロンベイという街にあります。
 バイロンベイといえば、オーストラリアのヒッピーの聖地ともいうべき場所です。
 ニューサウスウェールズ州とはいえ、隣のクイーンズランド州との州境にある街で、ゴールドコーストからは、パシフィックハイウェイを走って2時間もかからずにいける観光地なのです。
 ハイウエイの両側にそびえるユーカリの大木を飽きずに見ながら、私はバイロン灯台に出かけて行ったのです。

 犬吠埼には立ち寄ることがなかった私ですが、ここでは車を止めて、灯台の周囲に配された遊歩道を歩きました。オーストラリア最東端の地に自分は今立っているんだと無理に自分を納得させながら、遊歩道を歩きました。

 さて、眼下に見える海では、鯨が潮を吹いているかしらと目をやりますが、一向にその気配はありません。

 でも、私は想像の中で、キャプテンクックのエンデバー号を海の彼方に見出すのです。
 きっと、ニュージーランドから、タスマニアを目指して航海して来たクックが北寄りの暴風で流されてたどり着いたところがこのオーストラリア大陸の東岸であったことを知っていたからだったと思います。
 
 英国人クックは、ここでアボリジニと平和的な邂逅を経て、彼が指差す「gangurru」という動物に目を見張ったはずです。

 それから数世紀を経て、名もなき日本人である私がこの地に立っていることの不思議を思うのです。さらには、自分の娘と孫がこの地で生きる算段を見つけていることにも運命的な必然性を見出したりもするのです。
 
 ボストンで一ヶ月ほど暮らしていた時、所在ないままに、アメリカ独立の経緯を、現地で買った書籍を通して学んでいました。

 そこに、リトル・ブリュースター島という島がありました。
 そこは、Boston Light、つまり、ボストン灯台があるのです。
 Siege of Boston、つまり、ボストン包囲戦がなされた時代のことです。大陸軍と呼ばれる植民地軍が英軍が占拠するボストンを包囲したのです。
 大陸軍はこの包囲戦で結束力を増し、英軍に対峙したのです。

 そして、英軍がボストンを撤退するとき、英軍は腹いせのつもりか、リトル・ブリュースター島Boston Lightを破壊したのでした。
 あの高貴な英軍がさほどの失態をするくらい、負け戦は軍を堕落させるのだと思ったのでした。

 そのリトル・ブリュースター島Boston Lightが、つい先ごろ、私のとっている新聞の記事に乗っていました。

 BABAK TAFRESHIという写真家が、この灯台の後ろから昇ってくる満月を写した写真を紹介する記事でした。
 灯台の後ろにある小高い丘のてっぺんから、空気の濃さから、月が赤くゆがんで出てくるのです。大気によって月の反射する光が拡散、屈折するのです。
 ですから、月は、椀におかれた大福餅のように下が大きく上が小さくなって、私たちの目に入ってくるのです。
 そして、月が、Boston Lightの白い先端に到達すると、不思議なことに、あの赤いゆがんだ月は、丸い月に、そして、色は金色に変化して来たのです。

 あの白いBoston Lightが、その月の色具合から形具合までをとりわけ強調しているに違いないと、私、気がついたのです。

 一人のカメラマンBABAK TAFRESHIが、ボストンの街から15キロも離れた沖合の島、そこにある歴史的な灯台と月を重ねて撮るという魂胆には緻密な計算がなされているのだと。

 だって、灯台がなければ、それはただの月の動きにすぎない。
 でも、そこに灯台があることで、月はより大きく、より色合いを赤めて昇って来てくれたのだと。

 白き灯台は、一介の釣り師にとっても、一人の名もなき旅人にも、そして、プロのカメラマンにとっても、価値ある産物であったのだって、その時思ったのでした。





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縄文と弥生の人々が共存して、互いに文化を交流させている姿を思うことも、時には争いに発展することも、私は、想像をするのです。
さらには、世代間の違いにも思いをいたしたり、文化を異にする外国の地で、思いにふけったりもするのです。
人間なんて、人類の歴史から見れば、この世で活動する期間などわずかなものにすぎません。
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今回の作品はそうした意図を反映した作品なのです。>

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