しらすのどんぶり

3094jidjasur46akdjhfh398
自分の暮らす街とは異なる風景に接するというのは、時にはいいものです。だから、そのために、人は旅行に出かけ、温泉に浸かり、日常と異なる「旅」の中に身をおくのです。


 随分と昔のことです。一枚の小切手が私宛に送られてきました。

 その会社に何かの不手際があり、その会社の品物をきっと使っていたのだと思うのですが、その私に500円という記載された小切手が送られてきたのです。 
 まだ、世の中に出てもいない少年であった私は、その小切手なるものの使い方もわからず、結局、それは紙くずになってしまったのです。新聞では、何十億という資金を使って、この会社が消費者に弁済をしていることが大々的に報じられていたことを覚えているのです。

 随分と昔のことですから、何が原因でそれが送られてきたのかは一切の記憶が抜けてしまったのですが、送ってきた会社とその責任者の名前は今でもよく覚えているんです。

 でも、のちのちのことですが、よくよく考えて見ると、この小切手を配った人は、仮に1億円をそれに当てたとして、かつ、大々的に広報したとしても、実質はその半分、いやもしかしたら、その大部分を銀行から引き落とされることなく済んだかもしれない、なんて思っているんです。

 そう思うと、汚いやり方をしていたんだなと思うのです。

 だって、仮に500円の、当時使い道のあったテレフォンカードをその詫びの印に送れば、それは確実に500円の出費になるわけです。つまり、何億という金が出ていくわけですが、そうせずに、小切手であったら、送られた人間は使わないかもしれない、そうすれば銀行口座に用意された金額のいくらかは残る、そんな判断があったと思うのです。

 えっ、どこのどいつだって。
 まっ、それはもう随分と昔のことなので、名を語るのはよしておきましょう。

 先だって、日本国の大臣が給与を返還すると偉そうに言っていました。
 己の不始末を反省し、その証として給与を返還するというのです。

 へそ曲がりの私は、ここにも、侮蔑的な要素を見てしまうのです。

 だって、世の中の大半の人たちは、その給料を当てにして、それを生活の足しにし、自らの人生設計に供して生きているんです。
 給料が一ヶ月でも遅滞すれば、たちまち、世の中の大半の人たちはにっちもさっちもいかなくなるんです。 
 あの大臣は、己の不始末の反省の証として、そうしたのですが、あるいは、世の中の大半の人たちが不始末をしでかしたときに食らう「減給処分」を自らに課したのかもしれませんが、どうも得心できないのです。

 この人は、片手間に大臣の職を行っているのではないか。
 給料が出なくても、生活をしていける働き盛りの人っていうのは、存外、信用できないのではないかって、私は思うのです。

 中国の言に、「倉廩実つればすなわち礼節を知り、衣食足ればすなわち栄辱を知る」というのがあります。 

 「倉廩」、これ「そうりん」と読みますが、<米倉>のことです。
 米倉がいっぱいになるほど豊かになれば、人は礼節をわきまえというのです。
 着るものと食べるものが十分にあれば、人は名誉と恥辱がなんたるかを知るというのです。

 でも、私、500円の小切手の送り主に対しては、彼の銀行口座に、私の想像を絶する金額が刻印されるほど金を持っていても、礼節のひとかけらもなかったと思っているのです。

 議員という選挙を経て、信任を得て当選したほどの人が、もらったものは返します、だから、あれこれと言わないでと言っているようなもので、「栄辱を知る」からは、ほど遠いと思っているんです。

 先だって、伊豆のとある街でひと時を過ごしました。

 ホテルをチェックアウトして、昼食をどこかでいただいて、それから東京行きの列車に乗ろうと駅までの道を日陰を選びながらぶらぶらと歩いていたのです。

 とある店の前に来ると、何人もの有名人の写真が派手に貼ってある店の前に出ました。
 魚料理の店のようです。
 テレビでも紹介されたようで、これまた派手にその時の写真が店先に貼られています。
 テレビで放送されたり、これだけ有名人がきているなら、間違いはないとガラリと扉を開けて、店の中に入ったのです。

 そこには、一人の女将らしき女性が立っていました。

 私が「いいですか」、あるいは「予約はしていないですが」という前に、「今、忙しいから、外で待っていて、空いたら、呼ぶから」って、ぶっきらぼうに言うんです。
 席は空いているのに、忙しいには何か理由があるに違いないと思うと同時に、さほどまでして入る店でもないなと思ったんです。

 ですから、私、前日、駅前で、美味しいしらす料理がありますから、ぜひどうぞと声をかけられた駅前の店を思い出し、そこで「美味しいしらす料理」をいただこうと思ったのです。

 その店の前に行くと、昨日と同じように、あのお姉さんが暑い中店の外に出て呼び込みをしていました。
 私の顔を見るや、「来てくれたんですか。ありがとうございます」って言うんです。
 私が、今ついたばかりだからと入店を渋った言葉と、そしてこの顔を覚えていたようなのです。

 駅前なのに、呼び込みをしなくては入らない店だから、でも、しらすは作れるものではない、海からとって来て、それをご飯にかけるだけ、味の良し悪しは関係あるまいと、その店に入ったのです。
 小さな店です。十人も入れば満卓になります。
 どうやら、夫婦で店をやっているようです。
 にこやかな笑顔の主人が席を手で指し示し、冷たい水を差し出してくれました。

 奥さんらしき人は、暑い中、行き交う人もまばらな路上で、声をかけまくっています。
 「何がオススメですか。」
 「はい、今日は台風の合間に、私の友人の漁師がとって来たしらすが入っています。釜茹でにしたしらすと二つをてんこ盛りにした二色丼がいいと思います。」
 「では、それを」
 そんなやりとりをしながら、二色丼を美味しくいただいたのです。

 壁に、カマキリがじっとしていました、

 「ご主人、壁にカマキリが」と私が指をさして言うと、真っ青になって、自分は虫が苦手だって言うんです。
 ですから、美味しい二色丼を出してくれたお礼と思って、テッシュを借りて、カマキリをそっとつかんで、それを外に出してやったんです。

 感謝されました。

 それにしても、あの怯えようは尋常ではありません。そして、とても、人間らしくありました。
 きっと、無我夢中でしらすを仕入れては売り、店を大きくしようと頑張っているに違いありません。
 私、ずいぶんと感じ入ったのです。

 小切手だとか、給料全額返還などと言う輩に、そして、有名人の写真をいっぱい貼って店の宣伝をしながらもつっけんどんな、そんな料理屋より、夫婦二人懸命に、虫を怖がりつつも頑張る方に肩入れしたいと思ったのでした。





自分らしさランキング

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

nkgwhiro

Author:nkgwhiro
ご訪問
ありがとうございます。

《 9/23 🎂 Sunday 》
 
🦅ただいま、<Puboo!>にて、『nkgwhiro短編作品集「ある夏の五つの物語」』を発信しています。今回は有料作品となります。五つの物語のうち、試し読み作品をひとつ設定してあります。ぜひ、お目を通してくださればと思います。

<15.304字 400字詰原稿用紙38枚                            夏は、物語するにもっとも良い季節です。
開け放たれた扉の向こうから、異人たちも遊びにきてくれます。出かけた先でも、異人たちは向こうからやってきてくれます。
そんな異人たちとの出会いを綴った「nkgwhiro短編作品集」です。>

下の[リンク]欄からアクセスして読むことができます。

❣️<Twitter>では、『ものかき』として、朝と晩『つくばの街であれこれ』の更新情報をつぶやいています。下の[リンク]欄からアクセスができます。

⏬下の[リンク]欄から、歴史小説『一門』『福明と李福』、旅行記『ポーツマスの旅』、また、<水彩画>など、<nkgwhiro>の創作活動にアクセスができます。  

皆様のアクセスを心よりお待ちしております。🙋‍♂️

リンク
最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
フリーエリア