この薬味なるもの

89374qohkygdc53tiy4h
夏と秋が混在する境目の季節です。
小さな入道雲もあれば、薄雲もかかっています。
厳しい日差しの一方、トンボがこちらを茶化すように飛んでもいます。
予報では、今日が最後の30度越え、ならば、思い切り、夏の一日を過ごして見ようと思っているのです。



 この夏、そうめんをさっとゆがいて、水道の水で洗い、冷蔵庫の氷で冷やしたのを、昼餉として何度食べたことでしょうか。
 
 私は、これまで、暑さで食欲減退ということを一度も体験していません。
 きっと、夏には夏のものの食べ方というものを母から与えられて来たのだと思います。

 例えば、おひつに入れた冷や飯、冷たいご飯なのですが、おひつで水分が保たれていて、美味しいご飯なのです。
 それに、近くの肉屋さんで買って来たイカフライがあれば、暑い夏でも、美味しく昼ごはんがいただけます。
 時には、豆腐を潰して、そこに、千切りの人参を加えて、出汁で味付けしたものも、さっぱりとして美味しかったという記憶があります。

 今、おひつなどという高級なものはありません。
 ご飯はパックに詰められて、冷蔵庫です。そのまま食べようとしても、食べられたものではありません。
 ですから、当然、レンジで暖かくして食べます。
 だから、そんなご飯を食べていると、あのおひつの冷たいご飯が懐かしく思い出されるのです。
 
 だったら、そうめんをひと束茹でて、ネギを切り、生姜をすって、そこに卵を一つ落として、さらにきざみ海苔を散らして、啜ったほうがなんぼかいいかと、そのような思いで、夏はそうめんをいただくのです。

 ネギも、生姜も、私たちはそれを「薬味」と呼んでいます。
 唐辛子に、わさび、ごま、季節によっては柚子なども、すべて「薬味」と呼んでいます。

 ロンドンの街角で注文したフッシュアンドチップス。
 あれには何の味もついていません。
 ですから、買った人は、カウンターに置いてあるケッチャプをかけるのですが、ケチャップが苦手な私は、塩をまぶすだけで、それを頬張るしかありませんでした。

 そこに、黄色の辛子を塗り、ゆずをひとかけら絞り出したら、どんなにか美味しいだろうかと思いながら、旅の最中、いつもポケットに忍ばせてある七味の唐辛子をかけて食べていたものでした。

 香港で、朝粥を啜っていた時も、きざみネギをひとつまみ入れて、さらにパリパリの海苔を両手でほぐして入れたらさぞましうまいだろうと思いながら、テーブルに出されたお茶で、現地の人がやるように、箸を洗い、食べていたものでした。

 思うに、日本だけ、どうやら、「薬味」という、料理に独特の味付けをする習慣があるのではないかと、私、そうめんをすすりながら、この夏、幾度も思っていたのです。

 「薬味」というからには、体に良い成分がそれらにあるはずです。

 もっとも重きが置かれている作用は、殺菌および抗菌という作用です。
 冷蔵する技術がなかった頃、食あたりをしないよう、料理人が考えたものなのでしょう。

 それに、消化作用も見逃せません。
 父が、長丁場の毎晩の晩酌を終えた最後に食べるのが、いつも母に作らせていた大根おろしです。辛ければ辛いほどいいと喜びます。
 料理をつまみ、酒を飲み、その合間に、味の素と醤油をかけたどんぶり一杯の大根おろしをつまむのです。
 そして、最後に、そこにお湯を注ぎ、茹でたうどんのつゆにして飲むのです。
 
 辛い大根汁の中のうどん、ちょっと口に含ませてもらうと、その辛いことと言ったらありません。でも、不思議なことに、それが美味しいのです。

 その食性が、どうやら私にも受け継がれているようで、私も時に、大量の大根おろしを作って、それをおかずにしてご飯をいただくこともあるのです。
 知らない人が見れば、この人、よほど、生活に困っているに違いないと思うはずです。

 でも、これほど美味しいご飯はありません。

 季節は秋に向かっています。
 我が家の道向こうの研究所の松林には、美味しいキノコが生えて来ます。
 我が宅の落花生も今年は暑さで枯れた部分も多いのですが、いくつかの実はつけてくれそうです。
 そんなことを思っていると、新聞の記事に、人生の薬味なる言葉が出ていました。
 豊潤な人生には良質な交友が欠かせぬというのです。
 友人を薬味にたとえるなんて素晴らしいことだと感心しながら読みました。
 
 いついかなる時も、主流なるものに添える「薬味」なるものが肝要であると思ったのです。

 教師時代には、生徒を教えるということを主流とするなら、生徒に教わるということが私にとってそれではなかったかと思っているのです。
 生徒に教わるという気持ちがあれば、問題の発生の多くが防げるからです。
 まさに、「薬味」そのものの効能を持つことがその考えの根底にあるのです。

 今、自宅で仕事をする身分の私には、「薬味」はなんだろうと考えるのです。
 私に作用を与えてくれる何かです。
 それはなんだとお思いですか。

 不思議なことに、「勉強」なんです。
 幾つになっても「勉強」をすることで、何かが動いてくる、そんな気がしているのです。



自分らしさランキング

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

nkgwhiro

Author:nkgwhiro
ご訪問
ありがとうございます。

《 9/23 🎂 Sunday 》
 
🦅ただいま、<Puboo!>にて、『nkgwhiro短編作品集「ある夏の五つの物語」』を発信しています。今回は有料作品となります。五つの物語のうち、試し読み作品をひとつ設定してあります。ぜひ、お目を通してくださればと思います。

<15.304字 400字詰原稿用紙38枚                            夏は、物語するにもっとも良い季節です。
開け放たれた扉の向こうから、異人たちも遊びにきてくれます。出かけた先でも、異人たちは向こうからやってきてくれます。
そんな異人たちとの出会いを綴った「nkgwhiro短編作品集」です。>

下の[リンク]欄からアクセスして読むことができます。

❣️<Twitter>では、『ものかき』として、朝と晩『つくばの街であれこれ』の更新情報をつぶやいています。下の[リンク]欄からアクセスができます。

⏬下の[リンク]欄から、歴史小説『一門』『福明と李福』、旅行記『ポーツマスの旅』、また、<水彩画>など、<nkgwhiro>の創作活動にアクセスができます。  

皆様のアクセスを心よりお待ちしております。🙋‍♂️

リンク
最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
フリーエリア