世迷いごと

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一番上の孫に、マウンテンバイクを買ってあげて、一緒に、つくばのあちらこちらを乗り回しました。
一軒の豪壮な農家の佇まいを見て、これはお城と、我が孫驚いた表情で言います。
立派な佇まいの住まいと周囲を取り囲む森に、私も立派だなぁと感嘆した次第なのでです。



 大した人生ではないのですが、それでも、時に、人々の好意を受け、あるいは、反対に、世間からの冷水を浴びて来た私です。
 ですから、それなりに人の生き方に対して、ある思いを持っているのです。

 仮に、自分がなかなか認められないのは、人を見る目がない奴が上にいるからだという人がいたとします。

 その代表的な人物として、中島敦の『山月記』の主人公李徴を私は思い浮かべるのです。
 虎と化した李徴が旧友袁傪に出会って、己を振り返った時に述べる言葉があります。
 
 「己よりも遥かに乏しい才能でありながら、それを専一に磨いたがために、堂々たる詩家となった者が幾らでもいるのだ。」
 
 この言葉です。
 自分は人より優れている、俗物どもと自分は一緒ではないと、そう思う自分に気がついた一瞬です。
 
 この言葉は、実は、李徴ばかりではなく、すべての人が持つ、ひとつの心の有り様、独りよがりの権化としての言葉でもあるのです。
 でも、私も、そのほかの人も、李徴のこの言葉で、それが「世迷いごと」であることを知らされるのです。

 私が本らしい本、つまり、字ばかりの、絵のない、文字の小さい、本を父から与えられたのは山岡荘八の『太閤記』でした。
 父が、どんな理由で、その本を私に買ってくれたのかはわかりませんが、私は、その本にすこぶる心を動かしたことは確かなことなのです。

 百姓の出であっても、天下を仕切ることができるんだ、一大事にはどう振る舞うべきなのかを学んだのだと思うのです。

 もちろん、秀吉のように、天下を仕切ることなどはなかったのですが、それでも、自分の場所で、できるなら、一番上にありたいとか、尊敬できる人のために一肌を脱ぐべきであるという心は自分の中に生まれ出でたのですから、その最初の本は自分の人生を左右する本になったと思っているのです。

 世間では、秀吉は信長に比べれば、大した人物ではない、徳川家康が安泰の幕府を作ったのに対して、秀吉はそれができなかったと、この二人に対して幾分下に見る傾向があると見るようですが、私はそうは思わないのです。

 信長も家康も、それなりの家に生まれ、幼い頃から、多くの家臣に囲まれて来た人間です。
 しかし、秀吉はそうではないのです。
 食べるもののなく、橋の下で野宿し、時には、草履を懐であたため、時にはサルと小馬鹿にされて、それでもくじけることなく、己の将来を信じて努力をして来た人間の一人なのです。

 土木に通じ、計算に長じ、人々が望むものをわかり、それゆえに多くの人の心をわし掴みにして、そして、なしたことは、惣無事令、太閤検地、刀狩りと歴史に残る作業をして来ているのです。
 そんな秀吉のことを思えば、自分が世間に認められないのは、世間が悪いからだとうそぶくことはできないのです。
 
 だから、私は、自分の人生は、自分の信じる道を進むべきであると思っているし、思っても来たのです。
 それにより生ずる損は覚悟の上です。
 損と言ったって、命を駆け引きするわけではありません。
 金銭的にも大したことではありません。
 その大したことのない損のために、大切な生き方を反故にするわけにはいかないと、そうした生き方を身につけられたことは、私にとってありがたいことであったと思っているのです。

 己の信じる道を歩み、一切の言い訳をしない、これが私の人生におけるもっとも大切な言葉としてあるのです。





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最初の本

それは多大な影響を人に与えます
ですから

孫にも本を与えるときは慎重を期しているのです。

No title

nkgwhiroさんは、『太閤記』だったんですね。
私が幼いころ父から与えられたのは  
キュリー夫人の伝記  でした。懐かしいな。
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Author:nkgwhiro
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