経木に入った弁当

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大型船を小型船から仰ぎみるのもすげぇと思いますが、蒸気機関車も同じです。
この鉄の塊、精巧な機械的な動き、迫力、古びれば古びるほどに風格を増すその威容は、何者にも代えがたい迫力を持ちます。
何より、人類の発展の時代の象徴そのものなのですから。



 日本橋に、弁松総本店という弁当屋があります。

 私の知り合いで、銀座でちょっとした会社をやっている人物がいまして、何年かに一度、人寄せをして、ちょっとした会を開くのです。いや、彼が趣味でやっているマジックを披露するための会なんですが、私も、見よう見まねで、出来合いの「たね」を使って、少しやるんです。でも、私のは、彼のように人を集めてみせるレベルではなく、本当に、お遊び程度なんです。

 で、彼が人寄せして、マジックを披露した後、気のあったもの同士、食事会をするのですが、留守番をしている家の人にもと、彼は、帰りには弁当を用意してくれるのです。
 その弁当が、日本橋の弁松総本店のものなのです。

 この弁当、味付けは幾分濃いめなんです。

 生姜を細かく刻んだ辛煮は、それだけでを口に含むと、私ばかりではなく、きっと、若者たちもご飯を一口頬張りたくなるに違いない、そんなしょっぱさなのです。

 私の母の出は、東京は下町のさらに下の街ですから、出される料理はいつもしょっぱいもので、母の兄弟たちは、さらに、そこに醤油をドボドボと注いで味をさらに濃いめにしますから、私は子供頃からしょっぱい味には慣れているのですが、それでもやはりしょっぱいと感じるのです。

 はすやタケノコの甘煮も入っています。
 これも、母の実家と同じで、大きく切られた野菜を嬉しく思っていました。
 上品な料亭で食する野菜は、皆どれも小ぶりで、これでもかと薄く切られ、味もまた薄く整えられていますが、ここのは、ハスも厚めに切られ、タケノコも大きく、なんだか、それだけで得したような気分にさせられるのです。
 
 濃いめの味付けの中で、さほどでもないのが出汁巻卵です。
 実際は、濃いめなのだと思います。その証拠に、卵の持つ鮮やかな色合いは消えて、出汁の濃い色が出ていて、それが濃さを証明していると私思っているんです。
 きっと、卵がきっと新鮮なのでしょう、それに、丁寧に優しく作られているのでしょう。
 ふんわりした食感は一口で食べるには惜しい気がします。
 だから、いつも、おちょぼ口になって、お猪口の酒を飲むように、ゆっくりと出汁の味と卵の味を確認するように食べているのです。

 見るからに、固そうな魚も入っています。
 メカジキの照り焼きです。
 照り焼きとはいえ、照りはさほどありません。しかし、口に入れると、さほどのボソボソした感覚もなく、味が染み込んで、美味しいと感じるのですから、絶妙です。
 これも、ちびちびと歯でかじっては、一杯の酒で飲み込みます。

 何と言っても、美味しいのが、タコの桜煮です。
 普段はタコなど好んで食することはないのですが、ここの弁当だけは特別です。気持ち悪さが一つもなく、口に含みたいと思わせてくれるのですから、私、これ絶品だと思っているんです。

 この濃いめの味付けは、明らかに、肉体労働をする人たちが喜びそうな味付けです。
 日本橋は、今でいう築地の魚河岸があったところです。

 江戸時代の話です。
 いそがしい市場の人間が、食事もそこそこにして、仕事に従事しているのを見て、食べきれなかったものを包んで出したのがその始まりだと伝え聞いたことがあります。
 ですから、この店の弁当は今でも当時と同じく、昔ながらの経木に収まっているのです。

 経木にこびりついた米粒を箸の先でつまんだり、縁に寄せて一粒でも無駄にしまいと食べるのですが、これも弁松総本店の弁当を食べる私の楽しみであったのです。

 当時の私は、今と違って、幾分酒も嗜んでいましたから、土産にもらったその弁当を下段のご飯と上段のちょっと濃いめのおかずを肴に翌日の晩酌に供することが楽しみであったのです。
 秋に開催される彼のマジックを見て、翌日は、土産にもらった弁松の弁当で一杯飲むのです。

 元旦は、朝から屠蘇をいただき、正月だからと昼酒に頭を朦朧とさせるのを好みました。
 桜の満開の頃は、花を愛でながら、花びらの一片を猪口に浮かべて風情を楽しみました。
 暑い日の夕暮れは、冷えたビールに枝豆、たったそれだけで、涼しさを感じました。
 そして、葉の色づく頃といえば、白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけりという心境で一献傾けるのです。

 今年の秋は、幼な子たちが滞在していますから、しっとりと静かに飲むわけにはいきませんが、秋も深まった頃合い、幼な子たちをオーストラリアに送り出してから、一献傾けたいと思っているのです。

 もう、マジックの会を催す彼は鬼籍に入りましたから、以来、弁松総本店の弁当を口にしてはいません。
 弁当一個を頼むのは気が引けますから、今度、東京に出た折にでも、デパートかどこかで探してみようかと思っているのです。

 秋の晩、彼を思い出しながら、弁当をつまみに、一献傾けるのもいいかなぁって思っているんです。





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