一生モノを持つ身

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 白い雲が沸き起こってくるような
 その名も
 ハクウンボク
 近くにある大学の植物園に
 満開の花を咲かせていました

  

 メガネ屋さんへと足を運びました。
 いや、実は、その前に、ホームセンターのネジコーナーに立ち寄っていたのです。
 
 メガネの耳にかける部分、これ、テンプルとかつるっていう名称がついていますが、それがレンズと結節するその部分の蝶番がぶかぶかになってしまったのです。
 だから、ネジコーナーに行って、メガネを修理するキットがないかって、探しに行ったのです。

 そこにいたコーナーの専門家に問いますと、お客さんのように、自分で、なんでもやりたいという方が、ちょくちょく、お越しになられますが、メガネだけは、専門家に見てもらった方がいいと思います、てなことを私の顔を覗き込んでいうんです。

 もちろん、そのネジ交換と締め直しくらい、メガネ屋さんに行けば、無料でしてくれることを私は知っています。

 でも、それを自分でしたいと、そんなことを思う人が、私以外にもいるんだと、その専門家の口から聞いて、ちょっと、愉快になったのです。

 キットというのはおいてはないのですが、極小ネジ回しに、各種の精密ネジは置いてありますが、メガネによってそのネジの寸法が異なりますから、よく調べてからでないと、無駄になりますなんて、簡単には売ってくれそうにないのです。

 仕方がなく、私は、移動して、いつものメガネ屋さんに出向いた次第のなのです。

 昼下がりの時間がゆっくりと過ぎていく頃あいに、店に入りますと、あれ以来いつもいる店長さんが声をかけてくれました。

 この方が、何を隠そう、私に、一生モノのメガネを売ってくれた方です。

 この二十年で、髪には、白いものが混じり、それなりにロートルになってきました。
 いつも、物静かな紳士ぶりは一向に変わりありません。

 あの時、メガネの度数が合わなくなり、世間が見えにくくなっていました。だから、レンズを交換してもらうために私は店を訪れたのです。
 色々な機械で私の目の状況を調べ、重たいメガネをかけさせられて、そこにいくつものレンズを重ねられて、私の目の玉の現状が数値で示されていきます。

 随分と近視が進んで、左は幾分乱視も入っていますと、診断が下されました。
 では、それで、お願いしますと、私は新しい、私の目の玉に合うレンズの依頼をしました。

 もう、そろそろ、フレームも変えたらいかがですか、これ、形もデザインも古いし、それに、随分とくたびれていますよって、店長言うんです。

 確かに、太いフレームで、自慢は蝶番のところに、オニキスが入っているもので、確かに時代の先端とは程遠いものです。
 
 これなんかはどうですかって、店長、縁なしのフレームを持ってきました。
 金属部分が極めて少ないメガネです。
 きっと、この様子ならば、レンズ代くらいで、さほどでもないだろうと思ったのです。

 掛けてみると、なかなかにいいではないですか。
 縁なしだから、顔がくっきりとして見えます。それになにしろ、はやりのスタイルです。

 気に入りました。
 念の為、値段を確認します。 

 三十万ですと、店長、何気に言います。
 
 素っ頓狂な表情に、一瞬にして変容した私の顔を察知したのでしょう、店長、すかさず、私にいうのです。
 高いですが、一生モノです。

十年、つければ、年間三万円です。二十年なら、その半額です。
つければつけるほど、お支払いになられた額は価値を生み出していきますって、さらに、それよりなにより、お似合いです。
知性に満ち溢れ、先生であれば、このくらいしなくていけません。

そんなことばにほだされてしまったのです。
 
 そのことばに偽りはなく、あれから二十年余り、私は、その店長が言うように、そのメガネを一生モノとして愛用をしているというわけです。
きっと、あと十年は、持つかも知れません。

 ですから、蝶番が緩めば、店に行き、ネジの交換を頼み、汚れが目立てば、店に置いてある振動によって汚れを落とす機械の世話になっているのです。
 
帰り際、外されたねじ、その幾分曲がったネジを指先において、これ持って行っていいですかって、店長に問いかけました。
いいですよ、いま、袋を持ってきますって、意外にも、丁寧に対応してくれます。

でも、ご自分でやろうなんて、邪な考えはもたないでください。
一生モノのメガネが台無しになってしまいますから。
あなた様のメガネは、素晴らしいメガネなんですから、ちょっとしたことでも、このわたしが面倒をみますからねって、そんなことをいうのです。

どうやら、わたしの魂胆は、どこでも見透かされているようで、ちょっと、一生モノを持つ身にしては情けないと、そっと、メガネに手をかけて、店を出たのでした。



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Author:nkgwhiro
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《8 / 18 💦 Sunday 》
 
🦅 昨日、<カクヨム>にて『まぼろしのフランクフルト中央駅』を発信しました。

 縦横無尽に 

 意識の中を駆け巡るのは 
 人の持つ感性なるもの



この世に、二つの世界があり。
それは、現実世界と仮想世界。

かつては、そんなバカなと思える仮想の世界が、詩になり、絵になり、物語になって、現実世界で堪能されていました。
今、 AIがその仮想世界を現実世界に組み込み、私たちはその境目さえも不明の中で、仮想世界で遊ぶことができるのです。

なんともややこしい時代になったものです。

しかし、仮想の世界、昔から、人間の中にある何かのスイッチに刺激を与えてきました。
想像というスイッチ、さらに進んで、創造というスイッチにも、時には、幻想に、あるいは空想のスイッチとなり、私たちを楽しませてくれたりもしているのです。

フランクフルトの革ジャン男も、我が庭の山法師の木も、そして、日本語の二人称も、すべて、私にとって、現実世界と仮想世界を行き来する契機となったものたちなのです。

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【nkgwhiroの活動】

💝 <Twitter>で、『ものかき』として、朝と晩『つくばの街であれこれ』と題して、つぶやいています。 

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